第51話 ドラゴン溺愛中
アレスはいつの間にかアスライの護衛騎士になっていた。
私が寝ている間、レイモンドと二人で魔獣討伐に行って手柄を立てたらしい。
当然だ。
だって彼はドラゴンだ。
ドラゴンに敵う魔獣がいるとは思えない。
どうやってドラゴンを手懐けたのだろう。
転生者でも、ララを味方につけているわけでもないのに。
アスライ……恐るべき腹黒である。
そしてなぜかアスライの護衛騎士なのにアレスは私の護衛としてララと一緒にいちゃついている。
ララは否定するが、どう見てもイチャイチャだ。
まあ、いいか。
そろそろこの物語にもハッピーエンドを迎えさせてあげよう。
「アレス、今日はあなたに渡したいものがあるの」
「なんだ?」
アレスはララの口元についたドレッシングをハンカチで拭いてやっている。
「ララ、行儀」
「わかってるニャ」
そう言いながらも食べる手は止まらない。
「ララ、ちょっと食べるのをやめて」
「わかったニャ」
名残惜しそうにお肉を皿に戻すと、アレスはララの手を綺麗に拭いてあげる。
まったくもう。本当にこの人はドラゴンなの?
1000年も生きるとこうなるのかしらね。
「ララとアレスに渡したいものがあるの」
私は一冊の本をララの前に置いた。
「これは」
「そう。ララの本よ。ララに返すからアレスにあげて」
本に伸ばしたアレスの手をピシャリとララが叩く。
「まだハッピーエンドじゃないニャ」
「確か、最後はお城で舞踏会だったわよね」
「そうニャ」
「でも、それってララの見たいハッピーエンドよね。私はその先、結婚式も出産も二人がお祖父さんとお婆さんになるまで物語を終わらせるつもりはないの」
「それでもいいニャ。それまでずっとアンジェラのそばにいるニャ」
まあ、それはそれでいいけど。
やっぱり、この本はララに返すべきだ。
「ララ、本当はこれはララとアレスの物語だったんでしょ?」
「違うニャ!」
ララは立ち上がると回廊に向かって歩き出す。
いじっぱりなんだから……。
消えないところを見ると引き止めて欲しいのだろう。
私は、横で切なげにララの姿を見送るアレスの肩をグーで叩き、追いかけろと合図する。
まったく、世話の焼けるドラゴンだ。
「ララ、待ってくれ。この本をくれた時、深い意味があるなんて思わなくて、知っていたら絶対突き返したりなんてしなかった」
突き返したんか!
それはララも怒るかも。
「今では字が読めるが、当時は字も読めなかったし……それに俺はドラゴンで君には相応しくなかった」
「ララ、ちゃんと説明してあげたの?」
しどろもどろのアレスを見かねて、私はララに声をかけた。
「してないかもニャ……」
「もう一度やり直しても構わないか?」
長身のアレスがララの前に跪く。
「好きにすればいいニャ」
「ああ、ララありがとう!」
アレスがララを抱きしめてクルクルとダンスをするように笑いながら回る。
「言っておくけど、まだアンジェラの物語の途中だニャ!」
「待つよ。人間の寿命など一瞬だからな」
物騒なことを言って、アレスはララのほっぺたにキスをした。
「ニャャャャャャッ!」
バッキとララの鉄槌がアレスの
どうした!
まさかこんなところでドラゴンに戻らないでよね。
そう思ったが、変身したのはララの方だった。
まばゆい金髪に真っ白い肌。スラリと伸びた手足に輝くような黄金の瞳。
完璧な美女がそこにいた。
ただし、猫耳がなければ。
「アンジェラ様、ライラ様が言っていたことを覚えていますか?」
興奮してコートニーが私の袖を引っ張る。
「何だったかしら」
「夜のミノワールは女神の住まう場所だって言ってました」
「そういえばそんなこと言っていたわね」
「私、さっき入口のホールに飾られている女神像を見に行ったんですが今のララそっくりでした」
嬉しそうにはしゃぐコートニーを横目に、戸惑うララを見つめる。
私も見たことがあるわ。
神殿の中央に置かれたでかい女神像を……。
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