第43話 レイモンド視点 後悔
「おい、これはどういうことだ?」
アンジェラが崖から飛び降りて無事に受け止めたと思ったら、目の前に巨大な魔力を持った黒髪の若い男が立っていた。
いつの間に。
この距離に近づかれるまで全く気配を感じられなかった。もしも、相手に攻撃の意思があったら防げなかっただろう。
俺はアンジェラを抱きしめる手に力を込め、いつでも逃げられる体制を整えた。
しかし、男の目的はララだったようで立ったまま無言でララに怒られていた。
なんだこれは?
冷静に観察すると、男の魔力の気配には覚えがある。
何度も煮湯を飲まされたあのドラゴンと一緒だ。
まさかな……。
繁々と観察する。
間違いない。この魔力はドラゴンのもの。いったいどうやってこいつをこんな姿で連れ出したんだ?
それは一瞬の出来事だった。
男の涙にびっくりして注意がそれアンジェラを止めのが遅れる。
アンジェラが光る真珠を手に取ってしまったのだ。
「触っちゃダメニャ!」
ララが叫ぶが間に合わない。
力が抜けていくアンジェラの身体を抱きしめながら、俺は絶望へと沈んでいった。
「しっかりしろ」
俺はアンジェラを抱きかかえたまま、剣を抜く。
場合によってはララを人質にしてでもこいつを倒す。
「レイモンド、お前はさがっていろ。ララこいつは敵か?」
アスライも剣を抜き俺とアンジェラを庇う様に前に出る。
「古い知り合いニャ。絶交してたニャ。多分謝罪のつもりで真珠をくれたニャ」
「じゃあなんでアンジェラは倒れた?」
「人間には強すぎる力ニャ。コートニーに浄化させるニャ」
そこで、ようやっとコートニーが崖から降りてきてアンジェラに手をかざす。
真っ青なアンジェラの顔に少し赤みがさす。
「なんてことしてくれるニャ」
ララが男に飛び蹴りをお見舞いする。
「アレスは自分勝手ニャ。1000年経ってもララの欲しいものがわかってないニャ」
ララは冷たく突き放すと首にかかる真っ赤な宝石のネックレスを引き千切りドラゴンに投げつけた。
「すまない。こんなつもりじゃなかった。一目会いたかっただけなんだ」
✳︎
「いいか、お前らは絶対に中に入るな」
ララとカラスにばけたドラゴンに厳重注意する。
ララは「横暴だニャ」と騒いでいたが、言いつけを守っているところを見ると少しは責任を感じているのだろう。
「今回のことでお前が俺たちの味方じゃないということがわかった」
「ララはアンジェラの味方だニャ」
「それは違うな。お前の最優先はアンジェラがハッピーエンドを迎えることだ。その過程でアンジェラが怪我をしても病気になっても構わないんだ」
「そんなことないニャ……本当に心配してるニャ」
ララがしょんぼりと小声で反論する。
「心配はしても手は貸さないんだろ。現にお前はアンジェラの呪いを解くことのできるドラゴンと親しい関係なのにそれを黙っていた。もしも、今回ドラゴンにアンジェラが直接襲われることになっていても助ける気はなかったんだろう?」
「アレスはララの匂いのついたアンジェラを襲うことはないニャ」
ポロポロと涙を流すララの言葉は本当のことなのだろう。
自分でも強い口調になっていることはわかっていたが、苦しんでいるアンジェラのことを思うと抑えることができない。
「で、アンジェラはいつ目覚める? 本当にコートニーだけで治癒できるのか? 神殿に神官を派遣してもらった方がいいか?」
「レイモンド落ち着け、王宮医が診て医者ではどうしようもないって言ってただろ。それに神殿にもコートニーより治癒力のある者はいない」
いつの間にかアスライとコートニーが訪ねてきていた。
「そんなに睨むな。ただの見舞いだ」
「お前がただ見舞いのためだけに俺のところに来るわけがない。本当はなんの用事だ?」
「あ——、コートニー嬢が試してほしいことがあるって言うからついてきたのと……彼にちょっと……」
アスライはベランダの手すりで毛繕いをしているカラスに視線を移す。
「試したいことってのはなんだ?」
俺はまずはコートニーに尋ねた。
彼女が試したいことといえばアンジェラを目覚めさせることに違いない。
「あ、あの。お、お姫様を眠りから覚ます方法といえば一つしかないと思います。どうしてもレイモンド殿下に試していただきたくて」
妙にキラキラした瞳で見つめられ、何だか嫌な予感がする。
「なんだ?」
「王子様からのキスです」
「……すまないが、もう一度言っててくれないか?」
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