第48話 レイモンド視点 セカンドキス
「俺は十分待ったと思う」
アスライの執務室で、俺は頭を抱えていた。
「私もそう思うよ。コートニーがアンジェラ嬢にキスをしてみろと頼んでから1ヶ月も待つなんて実にヘタレ……じゃなくて紳士的だ」
どこに躊躇う理由があるのか? これまでにアスライは何度も俺に言った。
本人の意識を早く戻すため。
アンジェラの家族も聖女の浄化のためと説得をしてやっとここにいる許可を得たのだ。
「大丈夫、お兄ちゃんは弟の味方だから」
アスライは肩の荷が降りたのか、俺が討伐から戻ってからはすっかり上機嫌で口を出してくる。
「揶揄うな」
「揶揄ってはないさ。ただ、私なら好きな女を前に我慢できないだろうなぁと思っただけ」
「それは、色々と事情があるんだ」
俺だって、アンジェラに早く目覚めてほしいし、キスで目が覚めるならいくらでもする。
でも、これ以上アンジェラの意思を無視したと思われたくない。
「事情? 今更何の事情があるって言うんだ? すでに婚約者で関係も持った女と……ってまさかレイモンドお前……」
アスライが執務の手を止めて俺を凝視する。
「アンジェラにはまだ手をつけていない」
「……何ですぐバレる嘘を?」
補佐官であるイアンが紅茶を出しながら向かいのソファーに腰を下ろす。
興味津々ですと顔に書いてあるが、隠してもしょうがないので理由を話した。
「王が婚約の許可を出し渋った場合。脅しに使おうと思って」
「アンジェラ嬢はそのことをもう知っているのですか?」
「いや、まだ言えてない」
あの夜何もなかったなどと言ったら、怒って婚約破棄されかねない。
「レイモンド、あのときの約束を果たすまで手を出さないつもりか?」
呆れたようにアスレイが頭を振る。
「約束ですか?」
「ああ、イアンも覚えているだろ。昔お茶会でレイモンドがアンジェラ嬢と約束したこと」
「お茶会の後、レイモンド様に『キュン』って何だと質問されたやつですか?」
二人して哀れな者を目撃したとでも言いたげに俺を見た。
「もしかして、あれを実践してるんですか?」
イアンが肩をゆらして笑うのを我慢している。
「いくら何でも初恋を拗らせすぎでは……」
「ほっといてくれ」
「なるほど、それは寝込みにキスするのは
そうだ。ファーストキスはなかなか感触は良かったと思う。
だから2回目はもっとロマンチックにしたかったのに。
「泣かせるとは……」
そんなに俺とのキスは嫌だったのか?
「まあ、レイモンド殿下の行いはともかく、アンジェラ様が目を覚まされて良かったではありませんか」
「そうだな。コートニーの言う通り本当にキスで目を覚ますとは驚きだ」
慰めにはなっていないが、本当にキスで目覚めるなんて誰が思いつくだろう。
俺は昨日の出来事を振り返り、反省した。
✳︎
たまたま、アンジェラの様子を見に行くとララもコートニーも席を外していて、ベッドのそばには誰もいなかった。
侍女に下がるように言って、しばらくアンジェラの顔を眺めていようと思っただけなのに。
いつまでも、目を開けてくれないアンジェラが恋しくて。
髪を撫で、頬に手を当てて温もりを感じたかった。
このまま目を開けてくれなかったらと思うと恐ろしくて。
アンジェラからもう一度「レイモンド」と名前で呼ばれたい。
そう考えて、つい唇を手でなぞった。
そうしたら、たまらなくなって気づいたら口付けをしてしまっていた。
ズキンと胸が熱くなり、息ができなくなる。
タイミングが悪い事に、その瞬間コートニーとララが部屋に戻ってきた。
「あ——!」
ララが叫び声を上げるのをコートニーが口を塞いで阻止してくれる。
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