第49話 レイモンド視点 セカンドキス 2

「言われた通り、試してみただけだ。他には何もしてないから」

 熱くなる胸を抑えて逃げるように部屋を出たが、その後すぐにアンジェラが目覚めたと知らされる。

 だから、本当に俺のキスで目が覚めたのかはわからない。

 たまたまなのかもしれないし。


 はぁぁぁ。

 せっかくアンジェラが目覚めたと言うのに。会いに行けなくて辛い。


「プレゼントに、花とか宝石を送ったらどうだ?」

 すでに、俺の話に興味がなくなったのか、アスライが適当に言う。

 だが、それはいい考えかもしれない。

 言葉での「キュン」に囚われすぎていて、プレゼントをあげたことがない。

 よし、今度からは言葉だけじゃなく、プレゼントも渡そう。


 ちょっと気持ちが浮上してきたところに、誰かが執務室のドアをノックした。



「これはコートニー様、アスライ殿下とお約束ですか?」

 イアンが訪ねてきたらしいコートニーに声をかけている。


「こ、こちらにレイモンド殿下がおいでだとお伺いして」

「ああ、いらっしゃってますよ」

 俺?

「アンジェラに何か?」

 そうならすぐに向かおうと、ドアまで行く。


「い、いえ。アンジェラ様は大丈夫です。今身支度を整えています」

「そうか。じゃあどうして?」

 コートニーとは最近よく話をするが、アンジェラ以外の話題はほとんどない。


「レイモンド殿下、中に入ってもらってください」

 イアンに言われて、コートニーを執務室に招き入れる。


「コートニーどうしました?」

 アスライが執務机からソファーに移動してコートニーの前に座った。

 ?

 そういえば呼び捨て?

 しかも、何でわざわざソファーに移動してきたんだ?


 俺はアスライの隣に座りまじまじと横顔を観察した。


「レイモンド、私の顔に何か?」

「いや、相変わらず綺麗な顔だなと思って」

「それでわざわざ何かな?」

「あ、あの。レイモンド殿下が誤解されて出て行かれたようなので」

「アンジェラが目覚めたのは俺のキスのせいじゃないと?」

「いえ。あれは絶対に愛の力です。感動しました!」

 コートニーはものすごい満面の笑顔で肯定した。

 そう言ってもらえるのは嬉しいけど、どうも違う気がする。


「ご、誤解というのは、アンジェラ様の態度です。1ヶ月も眠っていたので身だしなみを気になされていたんです。決して、レイモンド殿下に怒っていた訳ではありません」

「身だしなみ?」

「はい、女心です。ですからこの次は可愛いだけじゃなくて、もっと具体的にバリエーションをつけて口説いてください」

「バリエーション?」

「そうです。レイモンド殿下って遊び人だって噂だったのに、いつも可愛いとしか言っていないですよ」

 コートニーは言いたいことだけ言って満足したのか「じ、じゃあお願いしますね」と執務室をでて行った。


「そこの二人、ヒソヒソ笑ってないで声を出して笑え」

 遠慮なく笑い転げる二人の横で、俺は深いため息をついた。


「可愛いから可愛いって言ってるだけなのに……」

 それにしても、キスされて怒っているわけじゃないんだ。





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