第47話 解呪 2 (キュン1)

「そうだ、アンジェラは白雪姫とか眠れぬ森の美女を知っているか?」

「ええ、知っていますよ。それがなにか?」

「いや……図書室で探したんだが見当たらなくてな」

 そりゃあそうだろう。

 どちらも、超有名だがこの世界にあるとは思えない。

 ここは日本のアニメの世界だし、あっちは世界的な企業だ。どう考えても著作権の都合上一緒に存在するとはないだろう。

 もしも、あったらララがハッピーエンドの本を作ろうなんて考えなかったかもしれない。

 でも、どうして急に?


「コートニーが試してみろって言ったんだ。だが、本人の意思を無視するのも嫌だから1ヶ月待った」

 本人の意思って私?


「レイモンド、何が言いたいの?」

 さっぱりわからない。

 白雪姫といえば7人の小人、眠れぬ森の美女といえば糸車。

 共通点といえば……王子様のキス!


「まさかしたの?」

 攻めるような口調になってしまったが、実際に怒っているわけではない。

 レイモンドがそんなことをしていたんなんて想定外で、何と言ったらいいのかわからない。


 ありがとう、も変だし。

 嬉しいと言うのともちょっと違う。

 今の気持ちは「誰よレイモンドに余計なことを吹き込んだのは?」である。


「アンジェラ、すまない。そんなに嫌だったなんて思わなくて」

 レイモンドがオロオロとした顔で、私の手を取り顔を覗き込んでくる。


 嫌ではない、嫌ではないが私は思わず顔を背けてしまう。

 だって、レイモンドの唇があまりにもぷるんとしていて綺麗なんだもの。

 それに比べて私は1ヶ月以上も寝たきりでお肌はカサカサだし、髪の毛も艶もなくてボサボサ、唇なんてカサカサを通り越してザラザラよ。


 これでも2度目のキスのシチュエーションを妄想したりしていたのだ。

 それが、ベッドの上でボロボロの姿でなんて人工呼吸と同じじゃない。

 そう考えると、情けなくて涙が自然にこぼれ落ちた。


「すまない。アンジェラ泣かないでくれ。俺は軽い気持ちで……いや、違う。もしかしたら聖女の言うことだから本当に目が覚めるかと、決して揶揄ってとか悪戯とか軽い気持ちじゃないんだ」

 レイモンドが本当に心配してくれていたのがわかって、なおさら私は涙を止めることができなくなった。


「わかってる。これは違うの……」

 それだけを必死で言ったが、レイモンドは困った顔で私の頭を撫でてくれた。


「あ、あの、アンジェラ様も目覚めたばかりですし、今日はもうお休みになられた方がいいのはないでしょうか」

 コートニーが申し訳なさそうに声をかけると、レイモンドは「わかった」と頷いて部屋から出ていった。


 そうだった。

 この二人がいたんだったわ。

 やだわ、恥ずかしいところを見られた。


「えっと、もしかしてお風呂に入れていないことを気にしてますか?」

「大丈夫ニャ。全然匂わないニャ」

 あ——。

 忘れてた。

 それ、大問題じゃない!

 さっき、レイモンドが髪にキスしてたけど!


「コートニー、私嫌われたかな?」

「えっと、大丈夫だと思います」

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