閑話  シークレットサンタ アスライ視点  (クリスマス特別話)

「これは何?」

 僕はイアン・ガネルの机に置かれた手紙の山を指差した。


「アスライ様、またいらっしゃったんですか? 今はブレイン卿の授業中のはずですよね」

「あいつの話は長いだけでつまんないんだ」

 ブレイン卿は歴史の教師だが、母の実家から推薦されてきているので偏った見方で授業をする。

「歴史は私情を挟むと途端につまらなくなると言うことを学んだよ」


「そんなことありませんよ。私の師匠は私情しかない人でしたが、話は最高でした。あとで嫌味を言われるのは私なんですからサボらないでください」

「なんでイアンが嫌味を言われるんだ?」

「殿下が私の授業が面白いと言いふらしているからじゃないですかね」

「なんだ? その嫌そうな顔はせっかく褒めてやっているのに」

「それ、わざとですよね。それでなくても殿下の教育係の中では下っ端で、身分も低い。プライドの高い方々を刺激してくれたおかげで、遊び相手と勘違いしてるって陰口言われてるんですよ」

 イアンの実家は別に身分が引くわけではない、ただ、イアンは三男なので爵位も領地も引き継がない。今のところ婿養子の話もないみたいだし、結婚にはあまり興味がないようだ。

 まあ、そのうちいい縁談を見つけてやろう。


「ふーんそうか、それは悪かったな」

「アスライ様、笑いながら謝らないでください」

「あはははは、だって想像したら滑稽だろ? 実力もないのに家柄やコネだけで僕の教師面して」

 まるで僕みたいだ……。


「アスライ様は性格は悪いですけど、実力はピカイチなので大丈夫ですよ。なんたって、アカデミー主席の私が保証します」

 心の声が聞こえたのか、イアンはくしゃくしゃと僕の頭を撫でた。

 まったく、王子の頭をこんなふうに撫で回すなんてこいつくらいだ。

 親でさえ、僕を子供として扱わないのに。


「不敬だからな」

「私をいつも困らせる仕返しです」

「それじゃあ仕方ないか」

「そうだ、それ、アスライ様も何か書いてください」

 ニヤニヤと「サンタさんへのお願いですよ」とイアンは便箋を僕の前に置いた。


「サンタさん?」

 なんだそれは?


「知らないですか? まあ、北国で有名な童話ですかね。レイモンド殿下のお母様がスタンド王国出身なので、最近ご夫人の間で流行っているらしいですよ」


「へー、テラ様か。それなら僕が知らないのは仕方ないな」

 なんと言っても母は側室のテラ様を目の敵にしてるし。


「それで流行ってるとは?」

「12月25日。この日はクリスマスと言って女神様の祝福に感謝するそうです。貴族は孤児院に温かい食事と綺麗な洋服を寄付し、あちこちの屋敷では子供達のためにチャリティーパーティーが開かれます」

「もともと、年末には貴族は寄付をすることが一般的だろ」

「まあ、そうですがそれに加えてプレゼントを交換すると言う風習もあるそうなんです」

 なるほど、暇つぶしのイベントか。


「それで、何を書けばいいんだ?」

「欲しいものです。なんでもいいですよ。小馬とかお城とかなんでもいいです」

 別にそんなものは欲しくはない。それに本当に欲しいものは手に入らないとわかってる。


「まあ、暇つぶしのイベントですから」

「わかった」

 僕はイアンに見えないように、適当に書いて封筒に入れた。


「書いたよ」

「私にください」

「それで、イアンはこれをどうするんだ?」

 神殿にでも持って行くのか?


「これは来月、テラ様が開かれるチャリティーパーティーの席で皆で読むんですよ」

 はぁ?

「なんだその悪趣味なパーティーは」

 子供であっても手紙をみんなの前で読み上げるなんて、なんのためにそんなことをするんだ?


「嫌だなぁ、勘違いしないでくださいよ。子供ですから色々なお願いが集まるんです。その中から自分で叶えられそうなものを選んで、匿名でプレゼントするんです」


 イアンはアカデミーに通いながら法務部の叔父にスカウトされ内勤として働いている。

 バカな家庭教師はいらないと宰相に言ったところ、前途有望な後輩だからと紹介されたのがイアンだった。

 僕の家庭教師になったせいで、こうやって雑用を押し付けられているのだろう。

 かわいそうに。


「まあ、面白そうだけど。僕のは返してくれ」

「どうしてですか?」

「金山が欲しいって書いたんだよ」

「そ、それは問題ありますね。了解しました。破棄しておきます。もう少し可愛いお願いはないんですか?」

「そんなものない」

「普通の子供がどんなことを望んでいるかを知るのも大事ですよ。暇なんだから一緒にチェックしてください」

「何をチェックするんだ?」

「毎年、誰かを呪いたいとか。殺したいとかその場に相応しくないものがあるんですよ」

 なるほど、まさか誰かに読まれると思っていないから、子供なら素直に書いてしまうんだろうな。

 自分のことは棚に上げて、納得した。


「じゃあ、アスライ様はこれを」

 イアンは数枚の手紙を僕に手渡した。


「王子様と踊りたい」

 なんだこれ?

 似たようなのがいっぱいある。


「ああ、それ定番ですよ。毎年20人はいるそうです。嫌がらずに踊ってあげてくださいね」

 こいつ、わざとだな絶対。

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