第12話 私以外に好きな人発覚
「仮に殿下と政略結婚をするとしても、王族と契約の魔法なしで婚約することは無理でしょう?」
そもそも王家の婚約式は、大神殿でたくさんの神官に見守られる中、女神像の前で行われる。そのとき契約したフリをするなんて不可能だ。
「それは大丈夫。国王を説得した」
「説得? とても信じられませんね」
呪われている私が問題のはずなのにお父様は何故か強気だ。
まあ、どのみち断るのだから機嫌を取る必要はない。
「女神からの祝福はどうするおつもりですか? 祝福を受けるには真実の愛を手に入れなければならない。呪いのことを知っている陛下が結婚を許可するとは思えません」
王位後継者の胸には魔力が一定量に達すると王家の紋章が現れる。
この紋章が真実の愛を手に入れると金色に変わリ、この国が信仰する女神から強大な力を受け取れる。
残念ながら現王は王家の紋章が現れずに即位した。そのため国民からの信頼を得るまで、自ら戦場に赴き、貴族院にも神殿にも影響力のあるマーシャル侯爵の娘ライラと結婚したのだ。
お父様もレイモンドの胸に王家の紋章があるのを知っているのね。
王家の紋章はアスライにしかないという設定だと思い込んでいたけど、やっぱり違ったようだ。
今となってはどうでもいいけど。
「確かに、私に紋章があれば女神の祝福を手に入れたいと思ったでしょう。真実の愛を手にしなければならない私と、呪いのため愛することを諦めたアンジェラ嬢とでは到底無理な話です。女神の祝福は兄に任せたらいい」
「え?」
紋章がない?
なんで嘘をつくの?
レイモンドの胸には間違いなく王家の紋章があった。
見間違いなんかじゃない。
「ランカスター公爵。私が欲しいのはアンジェラからの愛ではありません。兄アスライに負けない後ろ盾です」
レイモンドは私を目の前にして、罪悪感を微塵も感じさせないほど堂々と言った。
この人は本当にあの時と同じ人間だろうか?
先日、あんなに甘くとろける瞳で私に愛を囁いていたのに。
好きじゃないのに、なんだか無性に腹が立ってきた。
だって、あんまりだ。
それでなくても呪いまであるって言うのに、この上、継承者争いにまで巻き込まれるだなんて。
いくら政略結婚を希望していても、誠意のない人間とはごめんだ。
実は「私には好きない人がいるのです」と沈黙の中レイモンドが話を切り出す。
はぁ! 何それ?
「ですがその人には事情があり、祝福される相手ではない。しかし私の立場上未婚というわけにはいかないので」
さらに頭の中は混乱したが、ふと、思い当たることがあった。
レイモンドは主人公ではないが、立派な準主役。
ヒロインと会えば一瞬で恋に落ちてもおかしくはない。
好きな人って、もしかして聖女のこと?
もう、密かな恋に苦しんでるというの?
すでに、聖女が現れアスライと三角関係ならかなりストーリーが進んでいることになるけど。
それならレイモンドがこんな話をしてくるのも妙に納得がいく。
確かめたい。
でも、今レイモンドと話はしたくない。
「なるほど、殿下のお話はよくわかりました。他に好きな人がいて、アンジェラのことは愛せない。アンジェラは呪いのせいで人を愛せないのだから偽りの結婚をするのには丁度いい。さらに私の後ろ盾も得られて一石二鳥?」
「その通り」
王族の行動が好意だけではないことはわかっているが、ここまで自分の利益だけを主張するなんて苦笑いするしかない。
レイモンドってこんなクソヤローだったんだ。
「では、ランカスター家にその条件を飲む
お父様の質問は当然だ。
今の話ではランカスター家には全くメリットがない。
「私はアンジェラの呪いの解呪方法を知っており、呪いを解く魔力を持っている」
お父様の突き放した質問に、レイモンドはニヤリとし勝ち誇って答えた。
「それを信じろと?」
「簡単なことではないですが、それがドラゴンを倒しその心臓を聖典通り魔女に捧げなきゃならないとしても最大限努力すると誓う」
「いいでしょう。その話が本当なら殿下の後ろ盾に喜んでなりましょう。ですが、婚約は別です」
「解呪をお手伝いするのには婚約が絶対条件だ」
レイモンドはガンとして婚約するという条件を譲る気はなさそうだった。
婚約しなくても、後ろ盾にはなれるのに。
何か、聖女と関係があるのかしら?
「レイモンド様、今日のところはお引き取りください」
お父様のこんな事務的な声は久しぶりに聞いた。
いくら突然の訪問といっても、王家の人間に対しこんなにはっきりと退室を促せるのは、この国でもそういないだろう。
筆頭公爵家であり、王家と並ぶくらいの財力と私兵を持つ我が家くらいだ。
「貴族の令嬢でも、できれば好きな人と結婚させてやりたいと思うのが親だ。少し考える時間をいただきたい」
お父様、怒っているわよね。
まあ、娘に婚姻を申し込んで返事もしないうちに乗り込んできて、挙げ句の果てに別に好きな人がいるだなんて……どう考えても非常識だ。
「わかりました。色々勝手なことを言った自覚はある。ですが、良い返事を期待している」
レイモンドは立ち上がると悪びれもせず、右手を私に差し出した。
「アンジェラ嬢も私に色々聞きたいことがあるだろう? 公爵家の自慢の庭を案内してくれ」
後ろでお父様が渋い顔で睨むが、私は引き寄せられるように手を取った。
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