第21話 ゴスロリ?
「痛いニャァ〜!」
効果音をつけるなら「パッ」って感じでララが人間の姿に変わり、ベッドに仁王立ちしたままおでこを両手で押さえて叫んだ。
「可愛い」
じろり、と鋭い視線で睨まれて口を閉じる。
「失礼ニャ、レディを捕まえて可愛いニャンて」
「でもララ、お耳が出てるけど」
!
ララは目を見開いて頭の上にぴょこんと出ている猫耳を確かめると、「ニャァァァ」と叫んでベッドの隅にうずくまった。
「ニャンで、ニャンで引っ込まないニャ?」
ブツブツ呟くたびに真っ黒いしっぽがゆらゆらゆれる。
しっぽもあるって教えた方がいい?
「えっと、猫耳ってとても色っぽくて素敵だけど」
「そうニャ?」
「うん」
「アンジェラ好きニャァ」
ララは涙目で腰に抱きついてくる。
私の胸のあたりくらいの身長で、ツヤツヤした黒の髪をツインテールにし先端には緩くカールがかかっている。
髪に結ばれた黒いサテンのリボンがゆらゆら揺れてとても可愛い。
ワンピースは黒のクレープバックサテンにケミカルレースを何重にも重ねられ、スカートにはチュールレースを目一杯縫い込んである。
そして、首には真っ赤な宝石のネックレスを下げていた。
ゴスロリ?
この世界にもゴスロリがあるの?
脱がせて構造を観察したい。
「人型は久しぶりだし、魔力が足りないニャ。アンジェラに会うときは完璧な姿で会いたかったニャ」
「私は今のララの姿は完璧だと思うけど」
コスプレとしてだけど。
一部のマニアにはたまらないだろう。
だって、本物の耳としっぽよ。
どう頑張ってもコスプレでは限界がある。
前世なら、間違いなくコスプレ会のアイドルだわ。
喜んでくれると思ったのに、ララは目にいっぱい涙を溜めて「この姿は本当の姿じゃないニャ」と私の胸に顔をすりすりした。
「いい加減に離れろ」
レイモンドがララの首根っこを掴み無理やり私から引き剥がす。
「何するんニャァ!」
ララはブンブン両手を振り回してレイモンドに抵抗するが、背の高さも腕の長さも全然足りなくて相手にならない。
そんな姿も可愛いけれど。
「レイモンド、もう少しララに優しくしてあげて」
「こいつが俺の質問にちゃんと答えたらな」
確かに、現状ララは怪しい。
色で言えば、洋服と同じく真っ黒だ。
「ララ、聞きたいことがあるの。教えてくれる?」
私の言葉に動きを止めて、ララは元気なく私を上目遣いで見る。絶対嫌だと騒ぎ出すかと思ったけれどモジモジしている所をみると、きちんと頼めば話してくれそうだ。
「ベッドの上で座ってお話しましょう」
コクリと頷くと、ララは私とベッドの上に向かい合って座った。
レイモンドは椅子を持ってきて、ちょっと離れたところに足を組み座る。
「この本にかけられている魔法はあなたがかけたもの?」
「そうニャ」
泣きそうな声でララは私と本を交互に見た。
「でも、アンジェラが不幸になって欲しいわけじゃないニャ」
「わかってる。このお話はハッピーエンドだもの」
「アンジェラに最高のハッピーエンドを迎えて欲しかっただけだニャ」
「信じる。これは未来に起こることが書かれた本なのよね」
「違うニャ」
「え? 違うの?」
「この本が選んだ主人公はアンジェラニャ、これからのストーリーはアンジェラの選択で決まるニャ」
「選択を間違うと不幸になるの?」
「そうニャ。今度こそ、主人公はハッピーエンドになってほしいニャ」
今度こそ?
「ちょっと、待って。いったいこの本にはどんな魔法がかかっているの?」
「選んだ人間を主人公にして愛する人と色々な困難を乗り越えて行くラブストーリーニャ」
「色々な困難って?」
「それはわからないニャ。わかったらつまらないニャ」
「じゃあ、この本は私を主人公にした物語が書かれて行くだけなのね?」
「そうニャ。物語を面白くするためにちょっと脚色もあるニャ。ワクワクする恋の物語が読みたかったニャ」
ララの屈託のない言葉に、私は頭を抱えた。
「アンジェラ大丈夫ニャ?」
「ええ、大丈夫」
ちょっと期待した分の反動が大きかっただけ。
「それだけの魔法っていうのには無理があるんじゃないか?」
それまで横に座って黙って聞いていたレイモンドが口を開く。
「この本には王宮魔術でも手が出ないほどの大きな魔法がかかっているそうだ。それがただの恋愛小説を書くだけとは考えにくい」
「ただの恋愛小説なんかじゃないニャ!」
ララがベッドから座っているレイモンドに飛び蹴りし、そのまましがみついて頭をポカポカ叩く。
今度は掴まれて攻撃を阻止されないように両足をしっかりレイモンドの身体に巻きつけている。
後ろから見ると、ララのクルクルカールのかかった髪が逆立っていてピンと立っていた。
うん、パニエはシフォンね。あの裾処理はどうやっているのかしら。
尻尾の穴はどうしてるの?
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