第28話 ファーストキス (キュン5)
「あの、ボルジア令嬢は癒しの力をお持ちだそうですね」
ヒロインも転生者というのはありがちね。
問題はヒロインが本当にいい子なのか。それとも悪役ヒロインなのかだ。
どっちにしても規格外のヒロインみたいだけど。
私はオドオドと身体を縮こませ視線を彷徨わせる聖女にどうしたものかと考えを巡らせる。
現状を把握するためにも少し情報収集しよう。
「あ、あの、ど、毒薬はまだ治癒できません」
ちょっと、誰も毒薬を癒せるかなんて聞いてないけど。
いちいち私を悪役令嬢として扱うのはやめてほしい。
前世を思い出してから、今までずっとそのイメージを恐れて善良な令嬢を志しているんだから。
「まあ、そうなのね。毒薬はいろいろ種類があるものね。でも癒しの力があるのは素晴らしいわ」
「はい。昔から切り傷やちょとの風邪なら治癒できました」
え? 切り傷?
無くなった腕も再生できるはずでしょ?
そんなんで何で聖女と認定されたのよ。
「あの、ま、魔力は多いんですが、コ、コントロールができなくて治癒すると悪化してしまうんです」
「それじゃあ、コントロールさえ上手くいけば骨折も治せるわね」
「さあ、それは、ど、どうでしょうか。もう10年努力しているんですができなくて……」
「そんなことはないわ。きっと新しい先生もつくはずだから」
「ま、魔力をコントロールするにはアスライ様から本を借りなくてはならないんですが、わ、私にはとても上手く話せそうもなくて」
本?
ちょっと待って、本ってまさかもう一冊ララの本があるってこと?
これは要チェックだわ。
「大丈夫よ。緊張しなければ上手く話せるのよね。自信がつけばきっと緊張も減っていくから」
「ア、アンジェラ様は優しい方だったんですね。あの、よ、余計なお世話ですがレイモンド様と幸せになることを願います」
「まあ、ありがとう」
今のままじゃ呪いでレイモンドを死なせちゃうけど。
でも、私がアスライのことを好きにならないで、ヒロインが治癒の力をつかえたら呪いで死んでも生き返らせるかしら?
これも要チェックね。
「ところで、さっき就職先を紹介してもらいたいって言っていましたが、神殿に戻りたいのですか? それとも神殿以外に何処か治療院で奉仕したいとか?」
「い、いいえ。奉仕活動はもう懲り懲りです。ひっそりとした治療院でも探します」
うーん。
さっき、自分で引きこもりっていうくらいだから、前世をそのまま引きずっている感じかしら。
「令嬢。言葉もそうですが癒しの力も自信がつけばきっと使いこなせるようになります。そうすれば聖女としても認められます。そのために私も力を貸しますから。頑張りましょう」
私は何となくヒロインをほっとけなくてしばらくは応援することにした。
✳︎
「アンジェラ、どうしたんだ?」
レイモンドが私を抱き上げてベランダのベンチに腰掛ける。
「聖女様。癒しの力のコントロールがまだ上手くいかないんですって」
「へー、それで役たたずって言われてたのか」
「言い方!」
「ごめん」
レイモンドは私の耳元で謝るとそのまま、パクっと耳たぶを甘噛みする。
「んー!! やめて!」
いちいち謝る度に、ちょっかい出さないでほしい。
心臓がもたん。
「謝罪には態度も重要だろ」
「それは謝罪の態度じゃないから」
「じゃあこれは」と言ってレイモンドはぎゅーっと抱きしめる腕に力を入れた。
「もう、わかったから。謝罪を受け入れるわ」
バシバシとレイモンドの腕を叩いて逃れると、ベンチの端っこに座った。
「ちょっと、考えたんだけど。私も魔法を習いたてじゃない? どうせなら聖女も一緒にララに習ったらどうかしら」
そうすれば、ヒロインのことをもっと知れるし。こんなにレイモンドと仲良くしているところを見ればアスライを好きだと誤解するようなこともない。
癒しの力を磨いてもらえばレイモンドに何かあったとき治癒してもらえる。
すごい、いいことずくめだわ。
「却下」
「なんで?」
「まずはララは魔女の使い魔だ。アンジェラも魔女だと疑われる」
うっ。
魔女は下手をしたら火あぶりだ。黒魔術を封じられた上、厳しい監視下に置かれると聞く。
「それに、ただでさえ聖女の教育係なんてのをやるおかげで俺が独り占めする時間が減ってるのに、この上魔法の練習だなんて勘弁してほしい」
あー、すごい残念な理由。
「最近、いっつも一緒にいるでしょ」
「足りない」
低く呟いて、レイモンドが顔を逸らす。
「レイモンド?」
「言わないでおこうと思ったけど、半年後魔獣討伐に同行する」
「え? ドラゴンがいそうなの?」
「いや、今回はただの魔獣だ」
「まさか、お父様の要望なの?」
手柄を立てて悪い噂を払拭しろとても言ったに違いない。
呪いで死なれるくらいなら、魔獣に殺されろとでも考えたのかも。
「ひどいわ。王子をそんなところに送るなんて」
「いいんだ。今年は例年になく魔獣の動きが活発だ。士気を高めるためにも王族が参戦する必要がある」
「そんな……もしレイモンドに何かあればやっぱり私の責任だわ」
「俺はかなり強いから心配いらない。それにここにアンジェラの部屋を置いておく許可ももらったし」
へへへ、とレイモンドはまるで子供のように得意気な顔をした。
「無事に帰ってきてね」
「ああ、それにはお姫様の熱いキスがいる」
いつの間にか私の間近に座り、ゆっくりと端正な顔を近づけてきた。
「目を瞑らないの?」
甘い声が響き私は思わず言われた通り目を瞑ってしまう。
ふわりと唇が触れ、目を開けた時にはレイモンドに抱きしめられていた。
「ごめん、卑怯なキスだった」
レイモンドはすぐに私を離し「ララを探してくる」と部屋から出て行ってしまった。
「……キュンとするキスだったけど」
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