第24話 いよいよ婚約いたします
王家から婚約の申し出があり10日。
私とお父様は国王執務室横の謁見室に呼ばれていた。極めて親しい者で、内密な話をするときのみ使用されている部屋らしい。
目の前にはイケオジの国王が気さくそうに笑っていたが、どうみても古狸ってオーラを出している。
絶対に本心を見せないタイプだ。
「アンジェラ嬢の瞳と髪は本当に素晴らしいバイオレットサファイアだな」
国王が懐かしそうに目を細める。
「王宮に飾られている叔母の肖像画を見たことはあるかね」
「いいえ陛下。王宮を訪れましたのは初めてなので」
「そうか、まだデビュタントを済ませていなかったのだな。公爵、いくら娘が可愛いからといっていつまでも隠しておけないのだぞ」
私がデビューしていないのは、あまり人目につきたくないからだ。どんなことでも噂に上らないように気をつけ家に引きこもっていた。
「叔母のクレアはアンジェラ嬢の祖母に当たる。案内させるから帰りに見て行くといい」
「ありがとうございます陛下」
「構わない。これからは私の娘になるのだから。テラ、素敵な令嬢で安心しただろう」
「はい、陛下。こんな素敵なお嬢様をお嫁さんにいただけるなんて、レイモンドも大切にしなくちゃね」
「もちろんです」
レイモンドは横に座るテラ様に嬉しそうに返事をした。
第2王妃テラ様はレイモンドと同じ銀髪に透けるような白い肌をしている。とても細くて華奢なのに身長が高いのはスタンド王国の出身だからだろうか。
ジロジロ見つめすぎてしまったのか、テラ様と視線が合う。
悪い印象を与えてしまったかと心配だったが、にっこりと微笑み返してくれる。
気分を害されなくてよかった。
優しそうな目元がレイモンドにそっくりだ。
父に視線を移す。
テラ様を睨んではいないかとヒヤヒヤしたが、特段不快な様子もなく何を考えているかわからない顔で前を向いている。
結局、父は私達の婚約の話を承知した。レイモンドが密かに父を説得していることは知っていた。たぶん、私にはいえない何か条件をつけたのだろう。
「ところで、今日はアンジェラ嬢に頼みたいことがあって呼んだのだ」
国王の話に、苦笑いしているお父様を見ると頼みとはあまりいい内容ではないようだ。
レイモンドは心なしか機嫌がよさそうなので、それほど危険なことではないと思うけど、一体なんだろう。
「これはまだ神殿以外に知るものはほとんどいないのだが、実は聖女が見つかった」
「聖女様が!」
思わず大声が出てしまう。
でも、しょうがないじゃない。
ついにヒロインである聖女が現れたのだ。
悪役令嬢アンジェラが憎くて仕方なかった女。
レイモンドの思い人だ。
「彼女は辺境の男爵の娘なのだが、少々問題があってな」
「問題?」
そんな設定聖女にあったけ?
「普通、聖なる力を覚醒するのは神官で7歳前後、聖女だと10歳くらいになるのだが、コートニー嬢はすでに16歳だったのだ」
それの何が問題なの?
強い力なんだから少々覚醒が遅くても問題ないじゃない。
「一年間、みっちり神殿で修行したが未だに魔力が安定せず本来の力である癒しの力も弱い。おまけに辺境で甘やかされて育ったせいか、礼儀作法など一切習得しておらんのじゃ」
国王が苦虫を潰したような顔で愚痴る。
それは仕方ないというか、想定内です陛下。
最初の設定でありがちです。ヒロインは攻略対象に会うことで目を見張るほど成長して行くんですから。
初めから完璧なヒロインはいないんですよ。
まあ、そんなこと言えないですけど。
「そろそろ、聖女の存在を隠しておくのにも限界でな。神殿ではこれ以上の淑女教育もできないので、一度王宮で預かることにしたのだ」
そうよね。
そこから第1王子アスライとレイモンドの三角関係が展開されるんだから。
レイモンドに直接進展状況を聞けるかも。
楽しみだわぁ。
「そこでだ。レイモンドの婚約者でもあるアンジェラ嬢に友人兼教育係を任せられないかと思ってな」
お茶会にでも呼んでほしいといった軽い口調で国王は恐ろしいことを頼んできた。
「私がでしょうか? 友人ならともかく教育係などと務まるはずがございません」
そんな重要な役、アニメでも頼まれてなどいなかった。
レイモンドと婚約したせいで、話が変わってきちゃったの?
「深く考える必要はない。もちろん他にも教育係はつけるが主な仕事は友人の方だ。ただ、ちょっと癖のある娘でな。肩書はいくら持っていても不便はないじゃろ」
癖があるってどういうこと?
「それに、王妃も沢山の友人を送り込んでくるだろうからな。教育係という肩書きがあればそなたを優先するしかないだろう」
そっか。ライラ様も聖女をアスライ殿下の婚約者にしようと画策してるわよね。
できればそんなところに関わり合いになりたくない。
それでなくてもレイモンドを呪いに巻き込まないように、婚約後はひっそりと領地にでも帰ろうと思っていたのに。
「どうだろう。アンジェラ嬢引き受けてくれるだろうか?」
いや、陛下。それって私に断る権利はないですよね。
「お役に立てるように、最善を尽くさせていただきます」
権力って怖い。
「アンジェラ、そう難しく考えることはないよ。お妃教育の方が大事なんだから聖女には王宮生活になれるまでという約束だから」
レイモンドがものすごく真っ黒の笑顔で陛下を見る。
「そうじゃ、行き来も大変だろうから王宮に専用の部屋を用意させた」
「そこまでしていただかなくても。馬車で15分ですから」
お父様がすかさず断ると、レイモンドが「じゃあ、遅くなった時だけでも使うといいよ」とやんわりと話を締め括った。
なるほど、王宮専用の部屋はレイモンドの差金ね。
まったく、危機感がないんだから。
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