第55話 レイモンドの告白


「キュン?」

「やっぱり思い出せないか……それでもいいんだ。アンジェラ、俺と結婚して欲しい」

 切なげに愛を乞うレイモンドはこの世の誰よりも色っぽい。

 レイモンドは不安げに私の返事を待っている。

 っていうか、こんなイケメンのプロポーズを断れる人間がいるとは思っているの?


 嬉しいけど……嬉しいけど。


「私とレイモンドは婚約しているのよ。結婚するに決まってるじゃない」

 いじっぱりの私の口が素直に「はい」って言うことを拒んでしまう。

 だって、さっきのキスはものすごくずるい。

 あんな情熱的なキスの後で冷静に考えるのなんて無理。



 なぜかポロリとまた涙が頬をつたって落ちた。

 レイモンドが好き。

 愛してる。


 でも、私の愛していると同じ気持ちをレイモンドは返してはくれない。

 だって、レイモンドが私に結婚してくれって言うのは純潔を奪った責任を取るためだもの。

 

 私は一度もレイモンドから愛しているって言われたことがない。好意は感じるし、とっても優しい。でも、ファーストキスをした時ですら、愛しているとは言ってはくれなかった。


 それに、真実の愛だって手に入れていない。

 レイモンドの胸には内緒にしているが王家の紋章があるのに——。

 さっきララに結婚式で祝福をくれるって提案された時も拒否していたくらいだから、真実の愛を手に入れた時に金色に変わるはずの紋章は変化していないのだろう。


 やっぱり、レイモンドは私を愛しているわけじゃないんだ。




「アンジェラ、そんな辛そうな顔おするな。どうやら俺は間違っていたらしい」

 レイモンドが私をだ変えて、膝の上に座らせる。

「間違いって、結婚の申し込みをしたこと?」


 全身の血の気が引く。


「あの時と同じ場所を再現すれば、約束を思い出してくれると思った」

「思い出せなくて、ごめんなさい」


「うん、そのことは後で説明するよ。それよりも大事な告白をしたい」

 甘えるようにレイモンドは私の肩に顔をもたれかかり「怒らないで聞いてほしい」と囁いた。

 レイモンドが何を言い出すのかわからなくてドキドキとした。

 まさか、コートニーが好きって告白じゃないわよね。そんなことはあり得ないと分かっていても不安で私はゴクリ吐息を飲んだ。

 ここはアニメの世界。何が起きるか気を抜けない。


「フレドリック辺境伯の屋敷で君は純潔を失ってはいない」

「え?」

 思ってもいないことを言われて、一瞬頭が真っ白になる。


「嘘……」

 じゃあ、あの胸の恥ずかしいあとは何?

 しかも二人とも裸で同じベッドに寝ていたじゃない。


「すまない。誤解させた」

「どうして……じゃあ本当は何があったの?」

「あの夜、君は明らかに酔っていた。バルコニーで王家の紋章を見つけた君はもっとよく見せろと、ベッドまで俺を追い詰めた」

 あ——。そこは変わらないのね。


「それから、紋章をじっと見つめると頬擦りした」

 あああああ……やっぱり私が押し倒したんだ。


「君がバルコニーで歌っている時から、アンジェラだって気づいていた。だから、されるがままに俺も君にキスを返した……でも、君とそんな風に関係を持ちたくなかったんだ」


 そうよね。私の評判は酷いものだったし。嫌煙されても仕方ない。

 ん?

 じゃあなんで私の純潔を奪ったなんて言ったの?


「君とどうしても婚約がしたかった。一度婚約を断られていたからこれはチャンスだと思ったんだ」

「なんで?」

「なんでかわからない?」

「約束したから?」

「どんな約束だったか覚えていないんだろう?」

「うん。そうだけど」

「お茶会で、俺は君に恋をした。婚約してからは君を愛するようになった」


 レイモンドは私を愛している。

 その言葉はじんわりと胸に染み込んでいく。


「君に、そんな顔をさせるのは幼い恋心を拗らせて素直になれなかった俺のせいだな……アンジェラ、俺は愚かな行いをした。心からの謝罪を。そしてもう一度言おう、俺は君を愛してる」

 照れ笑いをして、レイモンドは告白してくれた。


「レイモンド、私もあなたを愛しているわ」

 私はレイモンドを両手で抱きしめた。

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