第35話 身代わり (キュン2)
「レイモンド、最近の私の魔法防護は目覚ましい成長ぶりなのよ」
ね。とコートニーに同意を求める。
自力で解呪すると決めてから2ヶ月猛特訓の末、空を飛ぶことと防護することだけはかなりの腕前になっている。
「そ、それはもうすごいです。ちょっとやそっとでは破られません。ドラゴンブレスを浴びても大丈だって猫ちゃんが言っていました」
猫ちゃんとはララのことだ。
私とレイモンド以外の人間の前では黒猫の姿のままなのだが、魔法をコートニーにも教えてもらう都合上、言葉も通じる私の使い魔ということになっている。
それにしてもコートニー、口を滑らせ過ぎ。
ドラゴンのことはレイモンドにはナイショって言ってあるのに、例え話でも怪しまれたら困るじゃない。
「それはわかってる。アンジェラは努力家だからな。まあ、箒に乗って空を飛ぶのはちょっと勘弁してほしいけど」
レイモンドは私を抱きかかえたまま、後ろから首筋にチュッと軽く触れるキスをした。
う——。
ゾクゾクと背中がざわめく。
「レイモンド、いい加減にしないと婚約破棄するわよ」
平気なフリも限界である。
「あ、あの。私にはおかまいなく」
「私がかまうの、こうもベタベタされたら気が散るでしょ」
まったく、こっちの身にもなってよ。
レイモンドにとっては挨拶程度で深い意味はないのかもしれないけど、私は元日本人で公共の場でのスキンシップには慣れていないんだから。
しかも、恋していることに気づいてからは、意識しすぎて疲れちゃうのよ。
「だって、まだキュンがたりてないだろ」
ん?
そういえば、この前もそんなことを言っていたっけ。
「キュンて何?」
「アンジェラ様、『キュンです』をご存知ないのですか?」
コートニーが驚いて、人差し指と親指を交差させて「小さなハートを作るのがキュンですよ」と力説した。
それは知ってるけど……。
あなた、全然普通に喋ってるけど!
「どちらにしてもあなたには好きな人がいて、私とは後ろ盾が欲しくて婚約したことになっているんだから、ベタベタは禁止です」
「それはどういうことですか?」
「そういえば、コートニー様には話してなかったわね。呪いのこともあってレイモンドと私は愛の無い政略結婚ということになっているの。ほらライラ様の取り巻きBが言っていたでしょ」
「後ろ盾がどうの……って言うあれですか?」
「そうだ。ライラはアスライを次期国王にしようとしているからな。俺は目障りなわけ」
レイモンドの言葉に、コートニーの顔がどんどんと青くなっていく。
きっとアニメでのライラの悪行を有る事無い事妄想しているんだろう。
「私ったらなんてことをしたんでしょう。アンジェラ様はアスライ様を好きで、レイモンド様は聖女が好きって言うシナリオを信じてました。裏にこんな設定があったなんて感動です!」
いや、ちょっと話が外れているような。
前世のアニメと現実がごちゃ混ぜになっているんじゃない?
「お前、言葉がスムーズだぞ? それに俺がお前を好きだなんて設定はない」
レイモンドがなぜかムッとして訂正した。
あま、アニメでは本当にレイモンドは聖女に恋をしていたんだけどね。
「今、私萌えてるんです! そんなときは吃音でしゃべってなどいられません」
そうなの?
初耳だけど。
「私、責任取ります。アンジェラ様を守るためにレイモンド殿下の恋人役をやらせていただきます」
おお〜。本当に吃音じゃない。
パチパチを拍手を贈り「素晴らしいです」と称賛した。
「安心してください。私の推しはアスライ様ですから」
コートニーが自信たっぷりに胸を張る。
「あ、違う違う。拍手したのはあなたの立派な所作にです。話をするときは俯かず相手の目を見て堂々とはっきり意見を言えていたのを見て感動しました」
4ヶ月も「俯いて話さない」を目標に訓練してきたのに、まったくできなかった。
もう諦めていたのに。やっぱり何事もやる気が一番なのね。
「身代わりは危険なので賛成できません」
「どうしてですか? 私がうっかり喋ってしまったんですから責任とります」
「私の方が防護魔法は優れているし、もしもあなたに身代わりをさせて何かあったら私は自分自身を許せないわ」
それに、アニメの通りレイモンドが聖女を好きになってしまうかもと言う不安もある。
ずるいけど、こんな可愛い子がそばにいるのはやっぱり焼き餅をやいてしまう。
「焼き餅か?」
レイモンドがニヤニヤと私を抱きしめる。
「ち、違うから!」
「へー、そう見えるけど、違ったか」
「アスライ様に誤解されたら困るでしょ」
私は慌てて、コートニーに同意を求める。
「いいえ、もともとアスライ様の眼中に入っていないと思いますので」
「そなんことないわ。ね、レイモンド」
「そうだな。あいつは人に興味がないからな」
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