第53話 女神様の企み (キュン1)
「ちょっと待って、賢いってどういうこと?」
「だって、女神とドラゴンの恋なんて身分差を超えた恋ニャ!」
ドンと、胸をはるララはなんとも誇らしげだ。
そうね。確かに、みんなが崇拝する女神様と世界を破滅に導くと言われるドラゴンとの恋なんてめちゃめちゃ身分差も障害もあるよね。
だからって……。
次のララの言葉を聞いちゃいけない気がするのは何故?
「ララとアレスの最高の恋物語が完成したら、こっそり豊穣祭で配ろうと思っていたニャ。そうすればみんなララのことを愛の女神だって思い知るニャ!」
ああ、やっぱり……聞くんじゃなかった。当のドラゴンはまったく気にしていないようで、ニコニコとララの話を聞きながらワインを飲んでいる。
お茶会なのに、なんでワインなの?
「まさか、女神自ら本を配ろうとしていたなんて……」
「配るのは教会ニャ。布教活動は教会の仕事ニャ」
「じゃあ、この本は初めから布教本にするためにアレスに渡したのね」
「当然ニャ。絶対に信徒が増えるってピンときたニャ」
ピンときたってそっち!
「仕方がないから、次は王家に祝福をあげることにしたニャ」
「それって、王家の紋章の持ち主が真実の愛を見つけたらってやつ?」
「そうニャ。相手には聖女を選んでたけど、なかなかうまくいかなっかったニャ。だけど、アンジェラを見てピンときたニャ」
コートニーは頭を抱えて、「私の感動を返してください」と小声で呟きぷるぷる震えている。
気持ちはわかる。
今無性にララの頭をぐりぐりしたい気分だもの。
もうちょっとで手を伸ばしそうになった時、後ろから笑い声がしてアスライ様とレイモンドがやってきた。
「面白そうな話をしているね」
アスライ様が口元を手で覆い笑いを堪えている。
真っ白い騎士服がめちゃくちゃ似合っていて、珍しく帯刀していた。そういえば、アスライ様は各騎士団の最高指揮官を務めているんだった。
「いったいどこから聞いておられたのですか?」
「ララとアレスの恋物語が完成したらってとこら辺かな」
じゃあ、ララの正体もわかっちゃったんですね。
「ララ様の正体は女神レラ様であらせられますか?」
アスライ様とレイモンドが揃ってその場に膝をつく。
うわー。なんて絵になるのかしら。
跪いている相手がゴスロリの猫耳じゃなければ完璧なのに。
「アンジェラにも言ったけど、気持ち悪いからこの姿の時は今までと同じでいいニャ。女神降臨はもっと感動的な演出で披露するニャ」
なんだか嫌な予感しかしないんですけど。
それにしても、二人とも驚きが少ないんじゃないからしら?
もしかして、ララの正体に気づいていたの?
「具体的にどんな演出か聞いても?」
コートニーがワクワクしながら聞いている。
立ち直りが早い。
アスレイ様とレイモンドが座るのを待ってララは立ち上がると、みんなの顔を満面の笑みで見回した。
「アンジェラの結婚式で、真実の愛を手に入れた者としてレイモンドに祝福を贈るニャ。誓いのキスが済んで、黄金に輝くララが登場したら感動するニャ。それから二人の絵姿を表紙にして教会で配ればララが愛の女神に返り咲くのも時間の問題ニャ」
ふふん、とガッツポーズするララにレイモンドは「断る」と冷たく言い切った。
一瞬、心が凍りつく思いでレイモンドを見ると、私の手をそっと握り締め返してくれる。
「アンジェラとの結婚式は盛大に上げる。布教本もまあ、内容を精査して出すことはいいとして、女神からの祝福を受けたことを公表するつもりはない」
「レイモンド……」
アスライがちょっと困った顔で、レイモンドを見る。
そうか、真実の愛を手に入れ王家の紋章が金色に変わると、女神から強大な力を受け継ぐとされる。
その力を受け継いだものこそ、次の王になるのだ。
「俺は王になるつもりはないから、アスライにやってくれ」
ララは自慢の計画を拒否されて駄々を捏ねるかと思ったけれど、「ふーん」と言って尻尾でレイモンドの頭をペッシとしただけだった。
「いいの?」
「レイモンドはすでに本の魔力を持ってるニャ。だからアスライの時まで楽しみはとっておいてもいいニャ」
ララにしては怪しいほど物分かりがいい。
でも、まあ機嫌が良さそうだから問題はなさそうね。
「アンジェラ、体調が良くなったら話したいことがあるっていったろ。この後どうかな?」
「いいわよ」
「そうか、じゃあミノワール宮殿の庭園を案内しよう」
レイモンドはアスライと同じ騎士服を着て私の手を取った。
いつもの豪華な衣装も素敵だけど、シンプルな騎士服もなかなか似合っている。
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