第41話 辛勝
今までとは比べものにならないような重さが手首に、腕に、肩に、そして全身に加わってきて、次の瞬間巨人が吹き飛んだ。しかしどういう訳かアグニは信じられないほどに冷静で、すでに次の巨人に向かって飛び出していた。
「グッ」と体を反らせて力を溜め、飛び出した勢いのまま雷鎚を放つ。アグニの拳は更に効率的に力を伝え、衝撃で風が吹き地面が割れ、巨人は見事に吹き飛んだ。
そのままの勢いでアグニは巨人を吹き飛ばしていく。
3体,4体,5体,6体,7体,8体、9体、巨人がドンドン減っていく。
そしてアグニが10体目に向かって飛び出したときだった。
(う、腕が動かない)
アグニは咄嗟に進路を変えて巨人達と距離をとって自分の右腕を確認した。
ダランと垂れ下がった右腕からは血が滴っていて、皮膚が所々裂けていた。しかしアドレナリンが出ているからなのか痛みはほとんど感じなかった。
(クソ! けどまだ左手がある! あと4体ならなんとかなる、いやなんとかするんだ!)
アグニは縮地で巨人に向かって飛び出した。そして10体目に雷鎚を叩き込み、次の巨人に向かって行こうとした時、踏み込みが浅かったのか想定よりも体が進まなかった。
どういうわけか歩くことすらも厳しくなっている。
下を向いて見ると足がブルブルと震えていた。筋肉を酷使しすぎたのだ。筋肉疲労が限界を超えて足が自重すら支えられなくなり始めているのだ。それを意識した瞬間から突然足が鉛のように重くなり、一歩踏み出すことすらキツくなってしまった。前はアンブロシアがあったから気にもならなかったが、それが無い今の状況ではこの症状は致命的だった。
(諦めてたまるかぁああああ!)
気がつけばもう声もでないほど体が重たかったがアグニは震える足に鞭打ち残っているエネルギーを総動員して11体目に向かって飛び出した。なんとか力を振り絞って11体目を吹き飛ばす。そして12体目に向かおうとしたが、もう立ち上がることすらキツい。
膝をついたまま肩で息をしていると、冬司の雄叫びが聞こえた。
顔を上げると冬司が槍を持って自分の2倍以上も大きい相手に向かって槍を突き出している。そしてその向こうではもう一体の巨人が一条の方へと手を伸ばしている。
冬司は1体で手一杯な様子だし六角さんは地面に突っ伏している。
(このままじゃ一条さんがやられる!)
足の筋肉がブチブチとちぎれる音がして、激痛で意識が途切れそうになる。しかし歯を硬く食いしばって巨人に向かって行く。
炸裂音が連続で響き渡り巨人が吹き飛ぶ、そしてアグニは意識を失った。
*****
「どこだ、ここ」
そう呟いたアグニの目の前には白い光で溢れた天井が広がっていた。
首を回して確認するとどうやら周りには人がいるようだ。
(ベッドに寝かされているのか?)
首を起こして見ると首から下が青い布で隠されている。
「…………手術?」
アグニがそう呟くとギョッとしたような様子で周りの人がこちらを振り向いた。
誰かが何か叫ぶと段々とハッキリしてきていた意識が急激に刈り取られていくのを感じた。
*****
「…………こんどは、どこだ?」
目を開けたアグニの前には白い天井、左を見れば窓、右側にはいくつかのベッドが置いてあった。
「…………病院か」
そう言って起き上がったアグニは自らの違和感に気がついた。まず両腕がガチンゴチンに固定されている。そして恐らく足も固定されている。つまりほぼミイラであるという事実、拘束されていない関節は首だけだった。
しかしすることと言っても学校の課題くらいのもので、腕が使えないから困ることも無いかな~と適当に考えてアグニはそのまま寝ることにした。
目を覚ますと窓の外は暗くなりはじめていて、病室には明かりがついている。
ボーっと外を眺めていると扉の開く音がした。振り向くと看護師さんが入ってくるところだった。
「おはようございます熾さん、具合は良くなりました?」
「あ、痛みは無いです」
そこからは自分の怪我の状況を軽く説明され、足の骨が再生するまでの間は入院していることが出来ると説明された。その説明が終わると外から背の高い女の人が入ってきた。
「やっほー熾くん」
「あ、えっと、だれですか?」
「え! ひどいな君~、風早だよ」
「え…………風早さん?」
「まあ確かに私は戦闘用スーツを着ているときと私服の時で印象が違うとはよく言われるけれど誰だか分からなかったのは君が初めてだよ」
戦闘用スーツを着ているときの姿からは想像できないような可愛らしい服装で、下ろした髪が緩く丸まっていて、肩の辺りで揺れている。スーツの時は強調されていた胸元の双山が服のせいで控えめに見えるのも、印象を変えるのに一役買っているのだろう。総じて言えば戦闘用スーツを着ていたときよりあどけないような感じだった。
「つかぬ事をお聞きしますが風早さんって何歳なんですか?」
「18歳だよ」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
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