第42話 父の秘密

「アッハッハッハッハ!! 驚きすぎだよ」


「え、俺より年下、年下?」


「そうだね、けど私の年齢はちょっとみんなと違うからね。ていうかそんなことを言いに来たんじゃ無いよ! ダンジョンの中での事が訊きたくてきたんだよ」


「ああ、なるほど」


「六角さんと笹木くんにも同じ事を訊いてて、ほとんどの状況は分かったんだけど君の話も一応聞いておこうってことになってね」


「あぁなるほど」


「そういうわけだからなるべく具体的に詳しく説明してくれる?」


「はい、じゃあえ~っと中に入って巨人を倒したところから話しますね」


 その後はダンジョンの中であったことをありのままに話した。自分で話していて本当に現実だったのだろうかという気分になってしまうほどに、ダンジョンの中での出来事、特に六角さんに関することは現実離れしていたが、風早さんは淡々と話を聞いていたのでアグニも落ち着いて話すことが出来た。

 アグニの話が終わると風早さんは礼を言って何か訊いておきたいことがないかと訊いてきた。


「う~ん、今までの話と全然関係ないんですけど、風早さんはどうして18歳なのに既にドミニオン級になるほど強いんですか?」


「あ~確かにそれは気になるよね。けどこの話は色々と複雑でね、簡単には語れないのよ。けどまあ強いて言うなら使ってところかな」


「なるほど…………」


「じゃあもう行くね。また次回の訓練は1週間後だけど、多分怪我が治ってないだろうから見学でいいよ。まあ来なくてもいいけどね」


「わかりました。あ! もう一つだけ」


「どうしたの?」


「ここってどこですか?」


「ああ、確かに言ってなかったね。ここは帝国グループの病院だよ。都内だから明日にでもご家族が来るんじゃない?」


「ありがとうございます」


「いえいえ、じゃあばいばーい」


 風早さんはそういって静かに病室を出て行った。既に日は完全に沈んでいた。


「…………寝るか」


*****


 次の朝、目を覚ますと体中が馬鹿みたいに痛くなっていた。骨の痛みというよりは筋肉の痛みのような感じがした。

 アグニがその痛みで一人でもだえていると、外から看護師さんと一緒に父さん、母さん、そして姉ちゃんが入ってきた。

 姉ちゃんは入ってくるなり笑顔になって駆け寄ってきた。


「アグニー!!!」


(なんだこの姉ちゃん、…………悪くない、いやだめだ! なにか良くないと本能が訴えている)

 そんな風にアグニが思っていると、父さんが少し厳しい顔で話しかけてきた。


「アグニ、…………ダンジョンで無茶するのは馬鹿がすることだ。六角に聞いたぞ、指示を無視したらしいな。本来ならお前が怪我をする必要なんて無かったんだ、それなのに指示を無視して死にかけるなんて、まさしく馬鹿じゃないか」


「だけどあのとき六角さんは」


「六角がレベル2のダンジョンごときでどうにかなると本気で思ってるのか? 自分の力を過信して少し調子に乗ってたんじゃ無いのか?」


「…………」


 確かに思い返してみれば六角さんは一度も攻撃は食らっていないように見えたし、汗をかいて苦しそうにしていただけだ。もしかしたら体力がキツかっただけで少し休めばすぐに回復したのかもしれない、そもそも巨人の攻撃は六角さんには通じなかったかもしれない。自分なら出来ると調子に乗って、勝手に巨人と戦って、怪我をした…………


「まあただ、父さんはお前と同じ年の時点で巨人を13体も倒すことは出来なかった。そこは凄いと思う、…………良くやった」


「…………ありがとう」


 気持ちが少し楽になった。しかし反省すべき点はたくさんある。今回分かったことを次回以降に活かしていかないと――


「それと怪我が治ったら父さんもお前の稽古をつけてやることにしたから、覚えといてくれよ」


「え!?」




――1ヶ月後


 アグニは病院を既に退院し、昨日で通院治療も終了した。つまりは怪我が完治した。そして今日は父さんとの訓練初日だ。


「父さんどこでやるの?」


「着いたらわかるよ」


 そういって父さんは車を運転している。既に出発してから1時間ほどは経っていた。朝早くに家を出て、今は高速道路を走っているのだが、段々と東から昇ってくる太陽が空を赤く染め上げていた。


 そしてそのまま走ることしばらく、父さんは大きな山の近くに止まった。


「とうちゃーく!」


「え、どこここ?」


「ここはな、霊仙岳りょうせんだけっていう山だ」


「何があるの?」


「レベル8のダンジョンがある」


「…………え? レベル何?」


「レベル8だ」


「えええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


「うるさいよアグニ! まだ朝なんだから! まあこんなとこ誰もいないけど」


「な、何しに行くの?」


「何って特訓に決まってるだろ?」


「え、殺す気?」


「アッハッハッハ!! そんなわけ無いだろ! 大丈夫だよ死なないから」


「だけどレベル8っていったら父さんがやっと安全に脱出できる位のレベルじゃん! 俺のレベル知ってる? 2だよ! 2!!」


「知ってるよ当たり前だろ、まあとりあえず黙ってついてきな。面白いから」


 父さんは満面の笑みでそう言って歩き始めた。


「まじかよ…………」


 こうなってしまえばついて行くしかない、アグニは燦志郎を追いかけた。

 車を止めたところから5分ほど歩くと父さんは立ち止まり、山を登り始めた。

 そして10分ほど登ったところで近くの木をペタペタと触り始めた。


「何してんの?」


「ん~、目印を探してるんだよな」


「目印?」


「おう、お! あったあった」


 父さんの方を振り向くとそこにはなんの変哲もないただの木とそれをペタペタ触っている父さんがいた。


「…………それがなんなの?」


「あっちの木の間をよく見とけ」


「う、うん」


 言われた方の木を見ていると一瞬だけ周りの木がざわめき、のような物が出来ていた。

 何度目を閉じてもその裂け目はそこにある。


「アレが父さんしか知らなかったレベル8ダンジョンの入り口だ」


 父さんは呆然としているアグニの肩に手を置くとそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る