第15話 幼馴染

 ズッドォォン!!


 という大砲でも撃ったかのような爆音が辺りに轟いた。燦志郎の構えるヒットバッグに向けて放たれたアグニの【撃】はバッグのど真ん中にヒットした。ビリビリとした重い衝撃が燦志郎の体を走り抜ける。


(な!? なんだこの重さは!? どこにこんな力があったんだ!!)


 上から巨人に押されているのかと錯覚するほどの力が腰に、太ももに、足首に加わり、ビキビキと音をたてて足が地面にめり込んでいく。膝を曲げればそのまま崩れ落ちてしまいそうだ。


「グゥゥゥゥウウ!」


 燦志郎は渾身の力で踏ん張りなんとかその衝撃に耐えたが、これ程の重さに耐えられる人間が果たして地球上に何人いるだろうか。燦志郎はアグニの方を真剣な目つきで見て言った。


「アグニ……」


「な、なに?」


「……この力は本当に必要になったとき以外は絶対に使わないようにしなさい」


「え……うん」


「それから父さんが大丈夫だと言わない限り、誰かにその力の事を伝えるのはやめておきなさい。例えそれが親戚でも、勿論友達でもだ」


「うん」


 父さんはアグニが頷くのをみて、頷いた。アグニはそれをみてやっと自分が息を止めていたことに気がついた。


「……そういえばこれなんて名前の技だ?」


「【撃】だよ」


「いやダサいな!」


「いや全然いいと思うけどな」


「いや! よくない! そうだな~、う~ん、殴ったときの音は雷が落ちたみたいで、上からの力で押しつぶされそうな感じがするんだよな、……ハンマーで潰されるみたいな。……雷と鎚で【雷鎚いかづち】とかどうだ?」


「おぉぉぉおおお!! 天才だぁ! 天才がいる!!」


「アッハッハッハ! もっと褒めてもいいぞ!!」


「いやもういいけどね」


「もういいのか、そっか……」


「うん」


「アッハッハ! 冷めてんな~」


「もう子供じゃ無いからね」


「あ、そういえば明日って暇か?」


「う~んと、暇だけど……なんで?」


「明日は父さんの職場見学来ないか? というか来てくれないか?」


「お、おぉ! いいね! ちょっとだけ行ってみたかったんだよね、自衛隊の基地って」


「そりゃよかった!」


「うん」


「……なあ、全然平気そうだけど手首とか肩とかは大丈夫なのか?」


「うん、全然平気だよ」


「そうか、……あれが平気なのか……」


「なんで?」


「いや、父さんでもあんなの撃ったら下手すると手首痛めそうだと思ったからアグニは平気なのかなと思ってな」


「別に普通だよ」


「よし! じゃあ帰ろう!」


「あ、うん」


 そうして2人は家までのんびり歩きながら帰った。家に帰るとちょうど隣の家から幼なじみの宝生ほうしょう奏樂そらが出てきた。ソラは上下白ジャージという完全に[見た目<快適さ]の格好をしていた。コンビニにでも行くのだろうか?


「こんにちはシロウおじさん」


「こんにちは~」


 ソラはそう言うと何事も無かったかのように栗色のポニーテルを揺らして逆方向に歩いて行ってしまい、僅かに挙げていたアグニの右手が治まりどころを探してうろうろしていたが、ソラは2メートルほど進むと突然振り向いてツカツカ近づいてきた。


「……え? アグニ?」


「そう、だけど」


「アハハッ、あまりにも最近見てなかったから会いた過ぎて幻覚見え始めたのかと思ったわ」


「え、え!?」


「冗談だけどね、アハハハッ、久しぶりじゃん! 何してたの?」


「いや、いろいろあって」


「じゃあ父さんは先に家入ってるからな」


 そう言って父さんは家の中に入っていった。


「色々ってなによ?」


「いや~、まあ……ダンジョン行ったり、……閉じ込められたり」


「へ!? 閉じ込められてたの!?」


「まあそうだね」


「誰がそんなひどいことしたの!」


「高校の……友達」


「……え? おかしいな、晴楽せいらちゃん(アグニ姉)にアグニは高校で友達がいないって聞いてたんだけどな?」


「……そうだよ! ほんとはただのクラスメートだよ!!」


「アハッ、そうだよね。だってアグニのこと閉じ込めて置いていこうとする奴らなんて友達な訳ないもんね」


 ソラは一瞬だけもの凄い冷え切った目をしたように見えたが、次の瞬間にはもういつもの明るいソラに戻っていた。


「あ~っと……今どこ行こうとしてたの?」


「彼氏とデート」


 奏樂と久しぶりに話せた嬉しさは一瞬で消え去り、アグニは心臓を鷲掴みにされたような感覚になった。呼吸が浅くなりじんわりと嫌な汗が噴き出している。


「……そ、へ~。……がん、あ、楽しんで来いよ!」


「まあ嘘だけどね」


「……?」


「コンビニにお菓子買いに行くだけだよ」


「……彼氏は?」


「アハハッ! いないよー! てかデート行くならもっとまともな格好してくわ!」


 コツンと裏拳をされながらそうツッコまれた。ソラの拳が肩に当たった瞬間、安堵というよりも歓喜というほうが正しいような感情が体中を駆け巡った。


「そ、そうだよな! さすがにジャージではいかねえよな! アハ、アハハ」


「アハハハ!笑い方ヤバ!」


「ゲフゥッ!(吐血)」


「じゃあまたね」


 そう言ってソラはコンビニの方に向かって歩いて行った。ソラの笑顔の一言は俺の心をズタズタに切り裂いていたが、ダンジョンで培った強靭な精神力で何とか耐えることができた。

 ソラが角を曲がるのを見送ってからアグニは家の中に入っていった。

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