第2章 『遺跡と二つ名』編
第16話 職場見学?
――翌日
「じゃあアグニは昼頃になったら市ヶ谷の駐屯地に来てくれ」
「うんわかったー」
「あと、家出るときに連絡してな」
「はーい」
「じゃあ行ってきまーす」
「「「いってらっしゃーい」」」
「はーい」
ガチャンという音が玄関の方から聞こえてきた。テレビでは今日もダンジョンのニュースが報じられている。
「先日から調査が始まった浅草のダンジョンのニュースです。昨日の夕方時点での自衛隊の発表によりますと、ダンジョンに入った遺跡探査官のうち少なくとも4名が死亡、1名が腕を失うという大けが、4名が軽傷を負い、ダンジョンに発生していた危険生物1体を討伐することに成功しました。この生物の死体は国立未確認生物研究所に移送され――」
「ここってアグニが……あれしてたところだよね?」
「うん」
「危険生物がいたの?」
姉ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「うん、いたよ。しかも2体」
「2体!?」
「今日はその話もされるらしいわよ」
母さんが唐突にそう言った。
「え? どういうこと?」
「偉い人に息子を連れて来いって言われたんだって」
「……え?職場見学じゃないの?」
「まあ職場見学とも言えるんじゃないの? 一応職場だし」
純粋な職場見学に誘われたのではないということは最初からわかっていたが、突然の事実に理解が追い付いていなかった。
「……今日って俺は何をされに行くの?」
「う~ん、何なんだろうね? けどパパがいるから大丈夫よ。なんて言ったって私の夫だし、あんたらのパパだし、ついでに言えば日本最強だしね」
「まあそれもそっか」
こんな適当な会話で済んでしまうのはそれだけみんなが燦志郎のことを信頼しているからだろう。しかし……
「なんで父さんそのこと言わなかったんだろう?」
「知ってるでしょ。パパは過保護なのよ。余計な緊張とかさせないようにしたかったんじゃない多分。けどアグニももう十分大きいしね、知ってた方が突然言われるよりいいでしょ」
「う~ん、まあ……」
実際のところどっちでもよかったが、とりあえず母さんに同意しておいた。その後はどうでもいい話をしながらご飯を食べて、姉ちゃんは大学の講義にいき、母さんはスーパーに買い物に行った。昼ご飯までには戻るらしい。あくまで「らしい」だ。母さんは時間に中々ルーズなところがあるから何とも言えない。
――12時頃
母さんは時間通りに帰ってきて、昼ご飯を作ってくれた。今日は焼きそばと炒飯だった。昼ご飯を食べ終えたアグニは階段を上って自分の部屋に戻ると、少なくとも普通の人から馬鹿にされることはない服に着替えて、必要そうなものをカバンに入れた。具体的にはペンとノートだけだ。
「じゃあ行ってきまーす」
「はーい、いってらっしゃーい。あ、定期券もった? 財布持った? パパに連絡した?」
「もう切れてるよ。持ったにきまってんでしょ。……してないな」
スマホを取り出して父さんにメールを送る。短く一行で「今から行く」とだけ送っておいた。
「それじゃあ今度こそいってきます」
「気をつけてね」
「うーん」
扉を開けると外はムシムシと暑く、地面が熱を照り返すせいで余計に暑い。さらにセミがこれでもかというほどに鳴きわめいていたせいで体感温度は45度だった。どうしてセミはこんなにうるさいんだろうか? 半分くらいならいなくなってもいい気がする。
そんなどうでもいいことを考えていると最寄りの神田駅についた。中央線に乗って四ツ谷で降り、そこからGo〇gle mapを頼りに歩くこと13分、ニュースでたまに見る防衛省の看板を見つけた。
そしてその近くには、このバカみたいな暑さにも関わらず、マスクをして眼鏡をかけた父さんが立っていた。父さんの視力は地球の果てまで見えているのではないかと思うほど果てしなくいいはずなので、メガネは変装用の伊達なのだろう。
2秒に一回くらいのペースで眼鏡を拭いている。しかし拭いた直後に曇ってしまうので、苛立たしそうに拭いては曇ってを繰り返していた。
しばらく見ていると、父さんが眼鏡を粉々に砕いてしまったので、近づいて声をかけた。
「父さーん」
「おう! よく来たな! ちょっと待っててくれ」
父さんはそう言って眼鏡の破片を拾い集めて門から中に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます