第17話 幕僚長登場!

 遺跡が出現する以前から陸上自衛隊には15の師団が存在し、そのそれぞれが決められた範囲の防衛を担当していた。

 一つの師団は通常、普通連隊3つと、そのほかの支援隊や特化隊などいくつもの隊によって構成されている。遺跡の出現に伴って、既存の隊に加えて特殊戦闘大隊というのが追加された。特殊戦闘というのは、未確認生物、通称『魔物』との戦闘を指している。

 アグニの父、燦志郎は全部で15隊ある特殊戦闘大隊をまとめた特殊戦闘団、通称SCOTスコットもしくは特戦の第8代団長を務めている。




 ということまではアグニも知っていた。しかし頭で知っているのと実際にそれを目の当たりにするのとでは全く印象が違った。

 家にいる父さんはあくまでも父さんだったんだということに初めて気が付いた。隣を歩く父さんは家にいる時は感じない威圧感を放っている。

 少しの間、沈黙が続いたが父さんが突然話し出した。


「アグニ、今から行く部屋にはちょっとだけ偉い人がいる。その人は父さんの上司でな、自衛隊で、いや地球上で家族の次に信頼している人だ。もしダンジョンの話になってそこでのことを聞かれたら、【縮地】や【雷鎚いかづち】のことを話してもいい、けど嫌なら話さなくてもいい」


「え? どっちでもいいの?」


「ああどっちでもいい。ただ、もし話した場合は自衛隊に所属することになるかもしれない」


「……その場合は階級はどこから始まるの?」


「……入りたいのか?」


「いや、階級によって考える」


「なんで階級?」


「だって階級高いほうが給料も高いじゃん」


「……アッハッハッハ! なるほど! たしかにそれはそうだ!」


「お金欲しいもん」


「そうだよな~、ただそれを決めるのは父さんじゃないからな~、あ、聞いてみてもいいぞ?」


「誰に?」


幕僚長ばくりょうちょうに」


「……ん?」


 何か今とんでもない階級が聞こえてきた様な気がする……けど気のせいだよな


「幕僚長優しいからダイジョブだよ」


「やっぱり幕僚長だったぁぁああ!!!!」


「今から会うから聞いてみろ、多分答えてくれるから」


「今からぁぁぁああ!!!」


 幕僚長を知らない方のために説明すると、幕僚長とは陸海空の自衛隊に一人ずつしかいないハイパースーパーウルトラめちゃんこ偉い人だ!約30万人もの自衛官のなかでたったの4人しか存在しない、まさに殿上人のような存在だ!

 そんな偉い人が今からアグニの話を聞きたがっている、こんな状況は想像するだけで気絶できる。


「いや、余計な緊張させたくなかったから言わないでただのおじさん相手に話してると思わせるつもりだったんだけどな、言っちゃった」


「言っちゃったじゃないよお!! え!? ちょ、ちょっと待ってよ、聞いてないよ!」


「そりゃ言ってないもんなぁ」


「その通りだよ! え、やっぱり今日は職場見学やめとこうかな」


「けどもうあそこで立って待ってるぞ」


 そう言って父さんが向いた先には、なんの変哲もない普通のおっさんが立っていた。身長は平均より高いだろうがアグニや燦志郎の方が大きいし、そこまで度を越えたマッチョでもない、健康的なただのおじさんがたっていた。

 アグニの想像では、幕僚長というのは身長3メートルで体重が2トンくらいの人?バケモノ?だったのだが、なんだか急に親近感が湧いてきてしまった。


「え? あの人?」


「そうだぞ。あの人が18万人の陸上自衛官のトップに立つ男の五神ごのかみ ぜん陸上幕僚長だ」


「いやめちゃめちゃ強そうな名前じゃん」


「シャキッといけよ」


「う、うん」


 五神幕僚長はアグニたちが近づくと笑顔で迎えた。


「幕僚長! おはようございます!」


「ああおはよう、そちらが息子さんだね。初めまして、陸上幕僚長の五神ごのかみ ぜんです。君のお父さんから君のことはよく聞いているよ、よろしく」


「あ、おき 火天あぐにです。19歳で燦志郎の息子です。よろしくお願いいたします」


「じゃあとりあえず中に入ってくれるか」


 五神幕僚長はそういって部屋の中に入っていった。アグニは父の後についてその中へと入っていった。




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