第18話 疑い
部屋の中にはいったアグニはその様子に驚愕した、といいうようなことは全くなく、幕僚長の部屋は普通の偉い人の部屋だった。
部屋の中央には応接用のソファーとテーブルが置いてあり、奥には仕事用の机が置いてある。
「じゃあそこ座ってください。燦志郎 陸将補もどうぞ」
「「失礼します」」
正面に座った幕僚長は少しの間じっとアグニを見つめると、唐突に話し出した。
「君はどうして死ななかったんだ?」
「……え?」
「君の眼からは、ダンジョンを踏破できるような覇気や意思の強さを感じない」
「……どういうことですか?」
「浅草のダンジョンに調査団が入ったのは知っているかい?」
「あ、今朝のニュースで見ました」
「そのニュースで死んだ者については報道されていたかい?」
「はい……4人がなくなって、5人が怪我をしたと、言ってました」
「そうだ。白い魔物を討伐するのために、一人が片腕を失い、黒い魔物との戦闘で4人が死んだ」
「……はい」
「しかも死んだのは
「……」
(知らなかった、自分以外にも取り残されていた人がいたなんて。どうして一度も会わなかったんだろうか?)
「全員死んだがね、君を除いては」
「……そうなんですね」
(というかどうしてこんな話を俺にするんだ? なにが言いたいんだ?)
「それを踏まえてもう一度聞きたい、どうして君は死ななかったんだ?」
「……どういうことですか? 」
「言葉通りの意味だ」
「……そんなこと俺が知るわけがないでしょう! 必死に頑張ったからですよ! だから! だから死ななかった! 生きて帰ってこれたんですよ!」
「……うん、じゃあはっきり訊こう。君は我々の敵か? それとも味方か?」
「…………は?」
「単純な質問だと思うが?」
「いやそんなの、そんなの味方に決まってるでしょ」
さっきから意味の分からないことを言ってくる五神幕僚長にアグニのイライラはほとんど限界まで溜まっていたし、それを見て何も言わない父さんにもなぜか腹が立った。
「味方に決まってるでしょ!! 敵ってなんだ!! 意味わかんねえわ!!! 僕は閉じ込められたんです!!!」
「ふむ……どうだった?」
五神幕僚長はそういって突然後ろを振り返った。すると何もないところから突然なにか水晶のような物を持った人が現れた。その人が手に持っている玉は白い光を放っていた。
「ほぼ確実に真実ですね。少なくとも嘘はついていない」
「そうか……よしよし」
「何がよしなんですか! 俺のことを疑ってたんですか!!」
必死にダンジョンで生き残っただけなのに、助けにも来なかったくせに、何かしらの理由で俺を疑っていることに無性に腹が立った。
「いや申し訳ないとは思うがこれが仕事だからね」
「そう怒るなって、これが仕事なんだ、許してくれアグニ」
父さんがそう言ってきたけど、何の説明もなく突然疑われたら誰だって腹が立つだろう。
「とにかく説明してください! なんで俺のことを疑ってるんですか!!」
「いやその前にダンジョンの中で何があったのかについて聞かせてくれないか」
「…………はい」
どうして自分がこんな風な尋問紛いのことをされているのか、なぜ疑われているのか、そもそもどうして話す必要があるのか、いくつもの疑問がアグニを苛立たせていたが、ダンジョンで毎日繰り返したように、なんどか深呼吸を繰り返すと少し落ち着いた。
そうしてアグニはどうしてダンジョンに閉じ込められてしまったのか、中で何があったのか、どうやって生き残ったのか、どうやって脱出したのかということについて詳しく話した。
【縮地】や【雷鎚】のことは話すか迷ったが、結局話してしまった。
五神幕僚長とその後ろに立っていた男の人は終始こちらを向いて真剣な表情で話を聞いていた。話を聞き終わると五神幕僚長はソファの背もたれに寄りかかった。
「なるほどなぁ。……う~ん、本当にただの事件のようだな」
「じゃあ今度はそっちが説明してください。俺はなにを疑われてたんですか?」
「まあ話せる範囲で話させてもらうが――」
五神幕僚長はそう前置きして話し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます