第19話 うおおおおお!

「ダンジョンからは遺物アーティファクトが発見されることがよくある。これは全て国に買い取られて研究機関が解析し、一般に普及しても問題なく、再現が可能だと判断された技術はそのまま民間の会社に使用が許可される。しかし中には戦闘向きの遺物や、解析しても現代の技術では理解できない遺物がでてくることもある」


「……知ってます」


「しかしどういう訳か、最近では遺物が裏で取引されている、かもしれない。そしてそういう遺物は戦闘向きであることが多いのだが、どうにも最近の仲介業者から集まってくる遺物が戦闘向き以外のものが多い。というかほとんどが戦闘向きではない」


「……なるほど?」


「最初は仲介業者が横流ししているのではないかということになり、しばらく警察が調査したのだが、ほとんどの仲介業者はシロだった。そこからしばらく捜査や検討が続き、そもそも遺跡に入って遺物を持ってくる民間人の中に、犯罪者が紛れているのではないかということになり、調べてみたところ、その通りだった。何人もの上級探索者が戦闘向きの遺物をヤクザやマフィアに流していたんだ」


「……俺もそれの仲間だと思ったんですか」


「そうだ」


「なんでですか! 俺が入ったのは無印遺跡ノーマークダンジョンですよ! そんな戦闘向きの遺物なんて拾えないじゃないですか!!」


「しかし君が一人で生き残れたのはなぜだ? 普通に考えるとおかしいだろう? なんの特殊技能もないただの一般人が逃れられるほど白い魔物は弱くなかった」


「それは……それは知らないですけど」


「だから我々は君が戦闘向きの遺物を持っていたのではないかと、裏の組織とつながっていったのではないかと考えたんだ。今となっては君の潔白は証明されたが、疑わしいものはとにかく調べていたんだ。申し訳ないと思っている」


 そこまで言うと五神幕僚長は頭を下げた。言っていることは理解できたが、納得は出来なかった。3か月も放置しておいて生きてたら敵なんじゃないかと疑うなんていうのは、論理としては納得できるが…………

 しかしここで何かしたところでどうにかなるわけでもない、ということはアグニも理解していた。だから何も言わずに座っていると、幕僚長が顔を上げた。すると父さんが立ち上がっていった。


「それでは幕僚長、失礼いたします」

「うん」


 父さんに続いてアグニが立ち上がると五神幕僚長も立ち上がり、その後ろに立っていた水晶を持っている男の人が扉を開けに行った。

 アグニが部屋を出ると燦志郎もそれに続いて敬礼をしてから部屋をでた。残された幕僚長は水晶を持った男に話しかける。


「嫌われ役ってのはほんとに嫌なもんだな」


「それが仕事ですからね。というより良かったんですか? もう一つの用件を伝えなくても?」


「あぁ、まあ見た感じだと大したことなさそうだったからなぁ……一応燦志郎に話を聞いてから、それに応じて封筒を渡しておいてくれ」


「わかりました」


 男は水晶を持ったまま部屋を出て行った。

 部屋に一人になった幕僚長は窓を開けると、空に向かって手から炎を放った。炎は龍の形になって空を高く昇っていく。



*****



「もう絶対に自衛隊なんか入らない」


「アッハッハッハ! そうかぁ、まあ好きなようにしたらいいけどな」


「父さんもこうなるってわかってたんでしょ」


「ああ、わかってたぞ」


「なんで分かってて連れてきたの」


「だって息子が疑われたままじゃ嫌だろう?」


「ま、まあそれはそうだわ」


「だろ? まあ帰ったらおやつでも食って機嫌直せよ、あんまりカリカリしてるといいことないぞ」


 そんな風に話していると入ってきた門についた。


「じゃあ父さんは戻るから、あんまり遅くならないように帰るんだぞ」


「はーい」


「じゃあ後でな」


「ん」


 日はまだ高いところにあって、まだムシムシと暑かった。特に寄り道することもなく家に帰ると、家には誰もいなかった。


 ピンポーン


 という我が家のインターホンの音が鳴るが、誰も出てくる気配がない。


「……最悪だわ」


 母さんがいると思ったからカギを持たないで出てきてしまった。だけどこんな暑さの中で玄関の前で待ってたら死んじまう。どうしようか

 アグニが脳死でインターホンを押しながら考えていると、突然、隣の家の扉が開いて奏樂そらが出てきた。


「やっぱりアグニか! いやピンポンピンポン聞こえるからアグニかな~と思ったんだよね」


「カギ無くてさ」


「うち入る?」


「あ、えっと、はいる」


「いいよ、来な」


 ということでアグニは数年ぶりに奏樂の家に入ることになった。限界まで下がっていたアグニのテンションは、今度は限界まで上がっていた。心臓がバックンバクンいっていて、体中が熱くなっていた。


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