第27話 能力測定その3 

「左京さんはどの方が一番長く逃げると思います?」


「う~ん、まあ体格だけで見たら熾さんとか司馬さんですけどね、総合的に見るとあそこの岩の上にいる一条さんじゃないでしょうかね」


 そういって久我の指さした先にはアグニが話しかけたスタイルのいい女の人がいた。


「あれ? 一条……ってなんか聞いたことなるなぁ」


「彼女は帝国グループの会長のお孫さんです」


「ええ!? なんでそんな人がライバル企業のうちにきてるんですか!?」


「知らないですよそんなこと。まあ産業スパイの可能性も考えましたけど、うちの技術は遺跡由来のモノが多いですからね。いくら帝国グループでもそんな簡単には真似できないでしょうし、そもそも今はレベル5(ヴァーチュス級)以上の遺跡に入れる探索系の会社が足りてないですからね。競合他社を倒すまでもなく仕事は溢れてますし、そもそもそんなことを考えるのは我々の仕事ではありませんから」


「まあそうですよね。難しいことは上の人たちに任せておけばいいですね」


「それよりなにより私は目の前の光景が信じられないんですが、小倉さんも私と同じ光景が見えていますか?」


「はい、丁度見てたんですけど目の錯覚じゃなかったんですね」


「錯覚だったら良かったんですが……」


「故障ですかね?」


「いえ、それは無いでしょう…………誰が、どうやったんでしょうかね」


 震える声でそう言った久我の前で、立て続けに犬、正式名称を四足歩行型基礎訓練用ロボットⅢ型が、2台続けて稼働停止したのがモニターに移し出されたのだ。

 しかも外部からの衝撃によって…………


 初めに説明したように1トンまでの衝撃であれば十分に耐えうる基礎Ⅲ型いぬが外部からの衝撃で稼働できなくなったということは、少なくとも1.5トン程度の力を加えられたということだ。

 久我の知っている人間でそんなバカげた力を出すことができるのは『陸自の国士無双』とその直属部隊、それから探索者協会の定めた最上級探索者だけだ。


 久我がそんなことを考えているうちに、再び1台が停止した。


「ちょ、ちょっとこれ様子見に行った方がいいんじゃないですか?」


「私は全員の数値に異常がないか確認してから行きますので小倉さんは先に行ってきてください」


「わかりました」


 そう言って小倉が出て行くと、久我はモニターを操作していく。操作しつつも目線は眼下の訓練場にも注いでいる。

 そして何度か画面のスライドを繰り返したとき、久我の目に信じられない文字が映り込んできた。


「なんだ、これは……」


――――――――――――――――――――

7番 [熾 火天]

心拍数:152拍/分

疲労度:軽

   *

   *

   *

最大出力:計測不可

――――――――――――――――――――


「……壊れたのか?」


 久我はしばらく目の前の現実について考えた後、階段を降りて訓練場の中に入っていった。


 するとちょうど小倉が戻ってくるところだった。ひどく動揺しているように見える


「どうでしたか?」


「あ、あの、信じられないんです事なんですが、あの、ヤバいです」


「簡潔にどうヤバいんですか?」


「あの、基礎Ⅲ型が砕けてました」


「……兎に角いきましょうか」


 久我は手元のタブレットに表示されている位置に向かって歩き出した。



 信号が出ていたところに到着するとそこには砕け散った基礎Ⅲ型の破片が落ちており、床には亀裂が入っていた。


「……終了しましょう。これ以上床を壊されたくありませんから」


 久我はそう言ってタブレットを操作した。すると天井のタイマーが止まり、機械的な音声が訓練場中に響く音で終了を伝えた。


 天井のタイマーはまだ15分ほどしか進んでいなかった。



*****



「こいつら、めちゃめちゃしつこいじゃねえか」


 走り続けるアグニを3台の犬はひたすら追いかけてくる。投げても蹴り飛ばしてもすぐに起き上がって追いかけてくる。

 ここまで徹底的に狙われてはどうしようも無い、かといって雷鎚いかづちを撃つのはなんだか気が引ける。だけど後50分も走り続けられる気はしないから何かしらの手をたないとそのうち捕まってビリビリされてしまう。

 そんな風に考えながら走っていると、足に向かってさっき見たボーラのような物が投げつけられて当たってしまった。足がもつれてそのまま転んでしまう。

 しかしこれで諦めるわけにはいかない

 

「ビリビリは嫌だぁぁぁぁ!!」


 アグニは渾身の力を振り絞って両足で地面を蹴った。そしてそのまま振り向くと、ボーラから力尽くで右足を抜き、縮地の構えをとる。

 犬が射程内に来た瞬間、一気に力を解放して犬に向かって飛び出した。


 やったことは無かったが雷鎚を連続で打てそうな気がしたから向かってくる3匹のうち、2匹に連続で攻撃してみた。


 ズギャァァァン!バギャァァァン!!


 という凄まじい音を立てて、犬型のロボットは粉々に砕け散った。そして床には亀裂が入り、映っていた草原が消えてしまった。


「……2回も3回も一緒だよな!」


 アグニはそう言って残ったロボットも雷鎚で粉々にしてしまった。

 近くには3つの小さなクレーターと粉々のロボットの破片が散らばっていた。

 その場に残るのはなんとなく気まずかったので急いで離れる。


 しばらく走って近くにロボットがいなくなった事を確認したアグニが「フゥ」と息を吐いて座ると天井のタイマーが止まり、測定終了のアナウンスが流れた。


「あれ? まだ15分しか経って無いのに…………俺のせいじゃないよな。き、きっと違うよな…………頼む違ってくれ!」


 アグニはそう願いながら入り口に向かって歩き始めた。

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