第23話 J'ai entendu parler de ça plus tôt !(さっき聞いたわよ!)

「大丈夫ですか?」


「J'ai mal aux pieds, mais je vais bien.(足が痛いけどまあ大丈夫よ)」


「……え?」


「Oh, I'm sorry. English is better, isn't it?(あらゴメンナサイ。英語の方がいいわよね)」


「……アイ ライク アン アッポォ」


「 ニィホーンゴならワァカリーマスゥカ?」


「……え?」


「Oh my god, this guy doesn't speak the language.(ああなんてこと、この人には言葉が通じないのね)」


「全然わからないけどなんかしら失礼なことを言ってるような気がする」


 降参するようなジェスチャーをするそのおばあさんの様子から何とかそれだけはわかったものの、他には何一つわからなかった。

 言葉が通じない以上、アグニにできるのはとりあえず救急車を呼ぶことくらいだ。アグニは119に電話をかける。


「119番、消防署です。火事ですか救急ですか?」


「けが人を見つけたので電話しました」


「あなたのお名前と住所は」


「燠 火天です。千代田区鍛冶町****です」


「近くに何か目印はありますか?」


「三鷹駅からちょっと行ったところです。住所は――」

        ・

        ・

        ・

「わかりました、直ちにそちらへ向かいます」


「お願いします」


ピッ


 電話を終えるとアグニはとりあえず救急車が来るまではその場で待っていることにした。おばあさんは道の端に座っている。

 そのまま特にすることもなかったのでアグニはスマホをいじりだした。するとおばあさんが話しかけてきた。


「D'où venez-vous ?(どこ出身ですか?)」


「……え?」


「ニー↑ホンジン↓デースか?」


「……アイ ライク アッポォ」


「J'ai entendu parler de ça plus tôt !(さっき聞いたわよ!)

 アナータはソンナァーニェアッポォがスキナンデスカ?」


「……のー あい どんと」


「……Vous êtes un imbécile, monsieur ?(貴君は馬鹿なんでございますか?)」


「いえす アイ ドゥ!」


「Eh bien, je suppose que oui.(まあそうでしょうね)

 Il y a une aura de stupidité dans l'air.(バカのオーラが溢れてますものね)」



 なんだか通じているような気がする! やっぱり外国の人にははっきりイエスかノーで答えた方がいいんだな!!


 アグニはそんな悲しい勘違いをしたままで救急車が来るまでおばあさんの傍にいた。救急車はすぐに来た。隊員の人にどんな状況だったのかを説明して、おばあさんは日本語が出来ないという嘘の情報を善意で伝える。


 そしておばあさんに挨拶をして面接会場に向かった。おばあさんが最後に何か言っていたが、よく聞かないでとりあえずイエスと言っておいた。


 面接の受付終了まではあと5分も残っていなかったが、まだ今からでも間に合う可能性はある! アグニはそこから急いで走り出した。縮地は目立つからやめておいた。



「いや~、偉いおばあちゃんだったらいいな~」


 アグニは走りながらそんなことをつぶやいていた。


*****


「課長、面接予定の人がほとんど集まったのでそろそろ行く準備してください」


「ああ、わかりました」


 課長と呼ばれた男は立ち上がって扉に向かって歩いていく。右手には書類の束が挟まったファイルを持ち、左手にはペットボトルを持っている。

 男はそのまま廊下を歩いていき、一つの部屋の前で止まる。


「今回も大吉が出ますように」


 そう呟いてドアを開けた。中には面接用の形に配置された長机と椅子が置いてある。男は机の真ん中に座ると目を閉じた。

 これからやってくる学生たちを想像しながらその時が来るのを待っている。彼の名は久我くが 左京さきょう、京都にいそうな名前だが東京生まれ東京育ちの江戸っ子だ。

 彼が採用した学生はそのうち半分以上が上級探索者以上になっており、人事のエースと呼ばれる男だった。


ガチャッ


 という音とともに扉が開く。さあ今日も大吉を見つけようか 

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