第22話 I like an apple(題名に意味はない)

「父さーん、これってどういうこと?」


「ん? あぁそれか。うーん、説明するとちょっと長くなるんだけどな、まあのんびり聞いてくれ」


 父さんはそう前置きして話し出した。リビングには母さんと姉ちゃんもいたから一緒になって聞いていた。


「アグニが帰ってからまた幕僚長に呼ばれてな、縮地と雷鎚について聞かれたんだよ。それでな、父さんは昔からそうなんだけどすぐに家族のこと自慢したくなっちゃうんだよな」


「「「知ってる」」」


「まぁそれでな、巧くいろいろと聞かれて、アグニは単純な攻撃力だけだったら今すぐに特戦に入ってもすぐにトップクラスにいくくらいのモノがあるって言ったんだよな」


「まあね、わかんないけどね」


「だから前まではお前たちが特戦に入りたいとか遺跡に行ってみたいって言っても絶対ダメって言うつもりだったんだけどな、まあ訓練をしっかりするつもりがあるんなら条件付きで許してもいいかなって思ったんだよ。やりたいことはやらせてやりたいから」


「「うん」」


「それで今回の勧誘の奴なんだけどな、特戦ってのはいつも人員不足なんだよ。だから常に隊員募集中なんだけどな、アグニも十分に戦力になるから特戦にやんわり誘導しろって言われたんだよな」


「なるほどね」


「ただ、父さんは訓練も碌に受けてない状態でアグニを特戦に入れるのなんて嫌だし、そもそも年齢制限があるからまだ入れないんだよな。てことで民間のところで新人研修受けさせておくくらいが丁度いいんじゃないかってことになったんだよな」


「ほ~ん」


「けどなぁ、アグニはもう自衛隊はいる気ないだろ? だからとりあえずどっか適当なところで研修受けてインターンして、卒業したら好きなことすればいいと思うんだよ」


「な~るほどね」


「まあ面倒だったらインターンもしなくてもいいけどな」


「あ、そうなの……」


 アグニが少し考える風の様子でいると、母さんがアグニに声をかけた。


「インターンいいじゃない! あんた今バイトもサークルも行ってないんだから行ってきなさいよ。家にいたって何にもしないでスマホいじったりゲームしてるだけなんだから」


「……じゃあ、インターンだけ行こうかな」


「おぉ、いいんじゃないか、どこにするか決まったら父さんにも教えてくれよ」


「母さんにもね」


「じゃああたしは一緒に決めてあげるよ」


「いや別にそれはいいや……」


「遠慮しないでいいんだぞ、姉ちゃんに任せな」


「いや~、別に遠慮してんじゃあないけどね」



――1週間後


「母さーん、印鑑かしてー」


「何に使うの?」


「インターンの面接行ってくる」


「あぁそれね、そこの引き出しに入ってる一番小さいやつ使っていいわよ」


「ども」


「どこにしたの?」


「とりあえず2つに絞ったんだけど、どっちにするか決められなかったから面接いってから決めることにした」


「そうなの」


「うん、『SSC』ってとこと、『帝国探索』のふたつ」


「あ~、帝国探索は聞いたことあるわね」


「なんか帝国グループの会社らしいよ」


「へ~、SSCっていうのも大きめのところなの?」


「うん、あんまり聞いたことなかったけどそうらしい」


「ふ~ん、まあ頑張ってきなよ。今日はどっち行くの?」


「今日はSSCのほう」


「パパには言った?」


「いや決まってからでいいかなって」


「まあそうね。それで、面接にはいつ行くの?」


「今からだよ?」


 母さんの眉間には見る見るうちにしわが寄った。


「……なんで! 昨日のうちに準備しておかないの! いつも言ってるでしょ!! 早めに準備しときなさいって!」


「行ってきまーす」


「忘れ物は?」


「ない、あっても気づいてない」


「まあいいわ、頑張ってきなさいよ」


「はーい」


 電車に乗って何駅かで降りてGo〇glemapを開く。面接会場は思ったよりも駅から遠かった。早めに出てきたおかげで迷わなければ間に合いそうだ。そう思ったアグニがのんびりと歩いていると、突然20メートルほど前を歩いていたおばあさんが転んでしまった。しかしおばあさんの周囲にいた人は皆忙しそうに歩き去ってしまう。


(どうしよう、このばあさん助けてたら面接間に合わないかもな。しかも見た感じSSCの偉い人の可能性もないんだよな……てかなんで誰も止まらないんだよ、誰か止まって心配しろよ)


 そうこう考えているうちにもドンドンおばあさんまでの距離は近づいていく。


(いや、最悪どうせインターンも行かなくたっていい訳だし、おばあさん助ける方が優先だよな。年寄りは全員どこかしらの偉い人の可能性があるからな)


 アグニはそんな偏見に基づいた僅かに不純な動機でとりあえず救急車だけ呼ぶことにした。


――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る