第7話 基礎技能【縮地】その2
膝を曲げて姿勢を段々と前に倒していく。重心が前に傾いていき倒れそうになって次の瞬間、まずは太ももに、次に
本来ならばこれで縮地が出来るはずなのだが、力の入れ方が悪いのか、若しくはそもそも筋力や瞬発力が足りていないのか、それ以外の原因があるのか、いくら繰り返しても映像で見たような縮地は出来なかった。
何度も続けていると、たまに僅かに縮地が出来ているような気がするときがあるのだが、ソレも傍から見ればそこまで大したモノでは無いのだろう。
疲労で足が上がらなくなるまで続けたが、結局その日は【縮地】が出来ることは無かった。アンブロシアをかじりながら石盤の部屋に戻ると、女性の声が突然聞えてきた。
「お疲れ様でした。改善すべき点を提案します」
「うわぁびっくりした」
「一つ、下半身しか動いていません。上半身も連動させましょう。二つ、集中力が途切れていました。集中してください。三つ、膝の曲げ方が浅いです。もっと深く沈み込んでください。~~」
その後も「sekiban」の指導は続き、ディスプレイには改善すべき点が列挙されていた。そして改善点の指摘が終わると次はそれらの具体的な改善案が映像で紹介され始めた。ここまで丁寧に解説してもらえばなんだか今度は出来そうな気になってくる。
アグニは運動場に戻って軽く昼寝をすると、sekibanに指導された改善点を思い出しながらもう一度縮地に挑戦してみた。すると
フッ!
と体が前に進む感覚があったが、僅かに進んだだけだった。しかしこれは大きな一歩だ! 前まではまず進む感覚すら無かったのだから!
嬉しくなったアグニはこぼれ出る笑みをそのままに、ひたすら縮地の練習に励んだ。もしこれを普通の体育館でやっていれば、気持ち悪い笑顔で「グフグフ」いいながらひたすら同じ動作を繰り返している変質者がいると通報されてもおかしくなかった。
――3日後
運動場には足を肩幅に広げて立ち深呼吸するアグニの姿があった。
呼吸を整えたアグニが左足を引いて【縮地】の姿勢をとる。
膝を曲げて姿勢を段々と前に倒していくと重心が前に傾いていき倒れそうになる。そして次の瞬間、まずは太ももに、次に
刹那、アグニの周囲から音が消えた。もの凄い速さで体が進んでいく。そして足が地面を掴むザザッという感覚と共に体が止まる。
振り返ればアグニがいたであろう場所の灰色の地面には、黒い焦げ目のようなモノがついていた。アグニの立っている場所から黒い焦げ目までを測ると約八歩、身長183センチのアグニの一歩が大体90cmだと仮定すると、実に7m強もの距離を【縮地】一回で進んだことになる。
「やった、やったぞ! くぅ~やったぞぉぉぉ!!!」
信じられないような自らの成長ぶりは、これまで無気力だったアグニを別人のように活力溢れる人間に変えるのに十分だった。
そして活力溢れるアグニはこの程度では満足しなかった。今まで何に関しても無気力だった反動からか、アグニの向上心は、とどまることを知らない怪物になっていた。
そして気づけばアグニは一回の【縮地】で9mもの距離を進むことが出来るようになっていた。
人生でほとんど初めて感じるその達成感と充実感はアンブロシアを食べたときの感動にも負けないほどだった。
充実感に溢れたアグニはそのまま石盤の部屋に行きステータスを確認した。
――――――――――――――――――――
【名前】熾 火天:19才
【偏差】筋力:30.9 筋持久力:29.2
柔軟性:18.6 敏捷性:21.9
全身持久力:23.7 瞬発力:52.9
巧緻性:40.8
【評価】筋力:B 筋持久力:B-
柔軟性:C 敏捷性:C+
全身持久力:C+ 瞬発力:A+
巧緻性:A- 総合:B-
【推奨】基礎技能を身につける
型を覚える
【能力】縮地:熟練度上級
――――――――――――――――――――
「お、おお! おぉぉぉぉぉおお!!!!」
あまりの成長幅に、言葉にならない感動がアグニの体を駆け巡った。
「筋力評価B、瞬発力A+、巧緻性A-、総合……、B! 縮地の熟練度上級! すごい、すごすぎるよ俺! 天才だよ! アハハハッ! アッハッハッハッハ!!」
人生で初めての自画自賛をしてしまうほどに、アグニの気分は最高だった。
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