第6話 基礎技能【縮地】その1
――1ヶ月後
アグニは1ヶ月の間、ひたすらディスプレイに表示されていたメニューをこなし、疲れたらアンブロシアを食べ、足を捻ったり肩を脱臼したらアンブロシアを食べ、脳が疲れれば寝るという生活をひたすら繰り返していた。運動場には時計のようなモノがあったから一応時間は分かっていたが、夜起きて昼寝るような事もよくあった。
その間に再びディスプレイを見ることは無かった。数字が少しずつ上昇するのを見るのは好きだが、大きく上昇するのを見るのはもっと好きだと気がついたからだ。
そしてアグニは今日、久しぶりにステータスを確認してみようと石盤の部屋へと向かっていた。
石盤の針に手を刺すのは久しぶりで、どうしてもためらってしまう自分がいる。しかし自分はどれだけ成長したのか、自分はどれだけ頑張ったのか、その結果を見たいという気持ちを止められるようなモノはもはや存在しない。それほどアグニは成長する自分が好きになっていた。アンブロシアを口に含んだアグニは勢いよく針に掌を押し当てる。すると見慣れたステータス画面がディスプレイに表示される。
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【名前】熾 火天:19才
【偏差】筋力:15.2 筋持久力:7.8
柔軟性:7.3 敏捷性:8.2
全身持久力:13.4 瞬発力:20.3
巧緻性:21.1
【評価】筋力:C 筋持久力:D+
柔軟性:D+ 敏捷性:D+
全身持久力:C- 瞬発力:C+
巧緻性:C+ 総合:C
【推奨】基礎技能を身につける
型を覚える
【能力】特筆すべき点なし
――――――――――――――――――――
「おおぉぉぉお!!! めちゃめちゃ伸びてるじゃぁん!!! クゥッ、嬉しーい!!」
前回の伸びとは比べものにならない伸びを見たアグニはこみ上げる喜びをかみしめていた。癖になりそうなゾクゾクとした喜びはアグニの人生で感じたことのないものだった。
「見た感じだと0~5がDで、5~10がD+、10~15がC-で、15~20はCそれで20~25はC+ってとこだな。なるほど、てことは5刻みで評価が変わっていくのか」
一通りの評価の改善をみてその喜びを堪能したあと、アグニは【推奨】の部分が変わっていることに気がついた。
「基礎技能と型を身につける、ってのは……どういうことだ? 基礎技能とは? 型とは? なぁ石盤よ、なんだソレは?」
アグニは独り言のつもりでそう呟いた。答えが返ってくることなど全くもって期待していなかった。しかしアグニの予想に反して突然辺りに女性の声が響き渡った。
「Η ακολουθία έχει κληθεί.
Εκκίνηση του συστήματος μαθησιακής υποστήριξης」
「は?」
聞えてきた女性の声はアグニにはほんの僅かも理解できなかった。突然の出来事に戸惑っていると、目の前に新たなディスプレイが現れた。ディスプレイには円が表示されており、女性の声と連動して動いているようだった。しかし円が多少動いたからといって女性の声が理解できるようになるわけが無く、アグニに出来たのはポカンと口を開けることのみだった。
しかししばらくすると女性の言葉は突然日本語になった。
「オキアグニの声を認証しました。おはようございます」
「……えっと、なんですか?」
「自律思考型学習支援プログラム『sekiban』です。生徒の学習を支援します」
「……生徒?」
「学生とは、主にアカデミーやその他の教育機関に入学して、知識を習得し、職能を開発し、特定分野での雇用を得やすくすることを目的に学習している者のことです。このアカデミーには戦闘技能を学習する者が在籍しています」
「……アカデミー?」
「
「ふ~ん」
「基礎技能の解説を開始します」
突然の事に全く理解が追いついていないアグニを気にすることも無く、その自律指向型学習支援プログラム『sekiban』は基礎技能の解説動画を再生し始めた。
ディスプレイにはニュースで使われるようなCGで作られた人型(以下CG人)が歩いていた。画面上のCG人が何やら膝を曲げて前傾姿勢をとると、次の瞬間には画面の右端にいたはずのCG人は左端に移動していた。
すると次にスロー再生のようなモノが始まった。膝を曲げたCG人は体を倒していき、今にも倒れそうな角度になった次の瞬間、もの凄い速さで画面の端に向かって飛びだしていった。
「基礎技能番号1【縮地】。まずはこれを習得しましょう」
女性の声がそう言うと、再び縮地の映像が先頭から再生され始めた。アグニはしばらくそれを見ると、隣の運動場に行って縮地の練習をし始めた。
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