第11話 調査団
浅草のダンジョンの前に、鈍く黒光りする装備で統一した遺跡調査部隊が整列していた。彼らの前には一人の背の高い男が立ち、今回の目的と手順の最終確認をしている。少しすると男は話を終え、ゲートの開閉装置の近くにいた者に向かって言った。
「扉を開け」
男の合図で扉は開かれ、整列していた者達は4人ずつ一定の間隔を開けて入っていった。全員がそれぞれの手に何かしらの武器を持っている。自動小銃を持っている者やショットガンを持っている者がいたかと思えば、槍や長刀のような物を持っている者、将又見たことも無い何かを手にはめている者もいた。
部隊の者達が全員中に入ると、全員の前で話していた背の高い単発の男も、彼より更に背の高い男と、背は彼より少し低いががっしりとした体格の男の後ろから中に入っていった。
しばらくすると体格のいい男が後ろを歩く背の高い短髪の男に話しかけた。
「
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!! フラグを立てるなこの馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
酒見と呼ばれたその男は、自らの手にガンレットを装着していることも忘れて目の前のフラグを立てようとした男、天草をぶん殴る。
殴られた天草はすごい勢いで吹き飛んだが、すぐに起き上がるとニヤニヤと笑って言った。
「いえ、なんだか雰囲気が硬すぎる気がしたのでつい」
「ついじゃないよ! ついじゃ!! お前今度俺の前でフラグ立ててみろ、いや、たてようとしてみろ? 即刻降格にしてやるからな」
「なぁんでそんなこと言うんすかぁあ! そんなこと言ってると……え~っと」
「せめて思いついてからしゃべれぇぇぇ!! 脳を通さずに会話しようとするなぁぁぁぁ!!!!」
「フッ、くだらない(小声)」
「聞えたぞ
「そんなあ!!」
「これに懲りたなら二度と俺に逆らわないことだな!」
「バリー・ボッダーのゲームがサ終してる!!!」
「なんで今スマホゲーム開いてんだよぉぉぉ!!! しかもなんでそんなマイナーな奴やってんだよ! 逆張りオタクか! てめえはなんも考えないでウマ息子とかやっとけやぁ!」
「あ、酒見部長のことは本部のパワハラ対策の方に報告しておきます」
「じゃあ俺は部下からのいじめ対策本部に報告してやるよぉ!」
「そんな対策本部は存在しませんよ?ボケちゃったんですか?責任者ぼくと変わります?」
「もうこいつらが部下なのやだよぉ~」
酒見が嘆いていると3人の腕輪が赤く光った。探索部隊の誰かが攻撃を受けたということだ。
酒見はほんの些細な音すら聞き漏らさないように耳を澄ませた。すると金属どうしがぶつかるような「ガキン!」という音が遺跡の奥から聞えた。
「こっちだ!」
酒見はそう言うと奥に向かって走り出した。坂田と天草は酒見についていく。
走って奥に進んでいくと部隊員が大きな白い犬のようなものと戦っているところだった。天草が一気に飛び出し白いバケモノに向かって大きな斧を振り下ろした。
ドガァン!
という音がして斧は地面をたたき割る。
白いバケモノは軽やかに天草の攻撃を避けていた。
「状況は?」
追いついた酒見が、戦っていた4人の隊員に問う。
「左肘の先を持っていかれたのが一名、あとは全員軽傷です」
「わかった。じゃあお前達はこいつの写真を撮ったらそいつを連れてゲートに戻れ」
「はい」
報告をした隊員はそう言って左腕についたポケットからフィルムカメラを取り出した。ダンジョンの中ではたまに電子機器が使えないことがあるのだ。ならばいっそのこと全部アナログでいいという事になり今では電子機器の持ち込みはほとんど無い。
「天草、そのまま注意を引きつけろ。坂田も天草と一緒。俺が叫んだら避けろ」
「「了解」」
そういって二人は白いバケモノに向かって走り出した。坂田は背中から2mほどの細い槍のような物を取り出すと、大きくのけぞってからソレを投げた。白い犬はソレを避けるために空中に飛び上がり、槍は石畳に深く突き刺さる。
天草は犬の落下点に斧を振りかぶりながら飛び込んだ。犬は辛うじてソレを避けたが、目の前に坂田の槍が迫っていた。
ドシュッ!
という音がして、坂田の放った短槍は犬の左前足に突き刺さった。短槍はそいつに刺さった瞬間、強力な電流を流した。地球上の生物なら間違いなく即死するような電流を浴びてさえ、白い化物は立ち続けていたが、明らかに電流は効いていた。
坂田と天草は短槍が刺さったのを確認すると、勢いよく犬に向かって飛びかかった。坂田は短槍を構えて、天草は斧を上段に構えて接近する。
二人の攻撃が白いバケモノに当たる直前、白い化物は耳を劈くような咆哮を放った。無防備に近づいた二人は突然の爆音で鼓膜が破れ、激痛で目の前の景色がにじんでしまった。
その僅かな隙を見逃さず犬は足を引きずりながら二人の攻撃をよけた。
しかし次の瞬間、二人の後ろから雑音と共に酒見の声が聞えてきた。
「撃つぞぉぉぉぉ!!!!」
二人は激痛に耐えながら全力で走った。天草と坂田が酒見の背後に隠れた瞬間、酒見は合わせた両の手の間から馬鹿みたいな太さの熱光線を放った。
道幅一杯に放たれたその光線を避けられるはずもなく、白い化物は光線に焼かれた。酒見は白い化物に近づいてその様子を確認し、死んでいるのを確認してから二人の様子を確認しに戻った。
「おいおい探索者協会の精鋭チームの方々がこんなことじゃ駄目なんじゃ無いかぁ? なんてな冗談だよ。お前らが前衛をやってくれたから倒せたようなもんだもんな。うん、さすがは期待のエース達だ! いやほんとにお前らの将来が楽しみだよ」
「酒見、さん、の声に雑音が混じるので多分鼓膜が破れてますね。まあ酒見さんの声は元から雑音みたいなもんですけど」
「アッハッハッハ! ぶっ飛ばすぞ坂田? まぁそんだけ軽口がたたけるなら大丈夫だな。じゃあ一旦脱出しよう」
酒見はそう言って腕輪の水晶玉を叩いて、ダンジョンに散らばっている隊員に集合をかけた。
すぐに1組が集合し、5分ほどで2チームを除いて全8部隊の集合が完了した。
「『
酒見の問いには沈黙しか帰ってこなかった。
「……よし、じゃあ『
酒見がそう言うと『子』から『辰』は『巳』を探しにいった。残ったチームの内、坂田と天草は負傷しているので白い化物の運送係、それ以外の者で周囲の警戒をしながら進んでいく。
先ほどまでは感じなかった不気味な静けさが辺りを覆っていた。
ゲートに戻るとそこには遺跡管理庁の設置した仮設の本部が広がっており、いくつものプレハブ小屋が建っている。
酒見はそのうちの一つに入っていき、そこに集まっている専門家や上司に中の様子を報告した。
報告が終わり外に出るとちょうど『
「『巳』は……駄目だったのか」
「はい……回収できたのはこれだけでした」
そう言って見せられたのは隊員だった物とフィルムカメラ2台だけだった。
「……そうか」
酒見はそれに向かって手を合わせ、しばしの間沈黙した。
そして次に酒見が目を開けると、ちょうど誰かがゲートの方に向かって歩いてくるところだった。
よく見ればそれは酒見の上司である
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