第35話 ソラとごはんと

「何してんの?」


「インターンの研修行ってたらおいてかれちゃった」


「アッハッハ、あたしもバイト行ってたらおいてかれた~」


「奇遇だね」


「一緒に行ったらしいよ」


「あそうなの、なるほど……」


「もうご飯食べたの?」


「いやまだだけど」


「じゃあ一緒に食べる?」


 ソラはそう言って手に持ったビニール袋を持ち上げた。


「じゃあ食べようかな」


「いいよ~」


 ソラはそう言うとアグニの隣に並んで歩き始めた。といっても10秒もしないで到着するような距離なのでソラは鍵をだしてドアを開けに行く。

 しかしどういう訳か鍵穴に入らないのか鍵が回らないのか、兎に角何かしらの理由でソラはドアを開けられず、ひたすらドアをガチャガチャやっている。


「どうしたの?」


「いや~」


「開かないんか?」


「う~ん」


 そしてソラは観念したようにこちらを向き清々しい笑顔で言った。


「持っていく鍵間違えたっぽい」


「指紋は?」


「パスワード忘れちった」


「…………じゃあそのドア絶対開かないじゃん」


 最近の家はほとんどがオートロックになっている。しかし大抵の家のドアは鍵を持たずに出てしまった時のために生体認証で開けられるようになっている。

 のだが生体認証に必要なパスワードがわからなければドアは開けられない。つまり現状は詰んでいる。


「どうしよ? もうここでご飯食べる?」


「寒くね?」


「まあもうすぐ12月だしね」


「それ何買ってきたの?」


「あ、これ? これはカップ麺とおにぎりとパン」


「アハハハ、炭水化物しかないな」


「い、いいじゃん別に!」


「いや全然いいけどな、てかそんなに食うつもりだったのかよ。よくそんなに食って太らないな」


「ち、違うよ! アグニと食べるつもりで多めに買ったんだよ!」


「あ、な、なるほどね」


「そうだよ! 一人でこんなに食べる訳ないじゃん」


「ふ~ん」


「ほんとだってば! あ、そうだ、買ってきたやつ保存効きそうだから今日はファミレスとか行く?」


「なんか強引さをかんじるけどいいよ」


「じゃあ早く行こ、混んじゃうから」


「そだな」


 そうしてアグニとソラは近くのファミレスに行くことになった。

 歩き出してすぐにソラが話しかけてきた。


「アグニ最近すごいゴッツくなってきたよね」


「あんまり全身見ることないから自分だとよくわかんないけど」


「前まではガリッガリだったけど今はね、ん~と、『ゴリラ!』って感じ」


「それは褒められてんの?」


「まあ細めのゴリラかな」


「余計に褒められてんのかわかんないんだけど」


「アハハハ、褒めてるよ! 一応」


「まあ何でもいいや」



 そんな風に話しているといつの間にか着いていた。ご飯を食べて会計を済ませて外に出る。


「あ、ちょっとトイレ行ってくる」


「じゃあ入り口のとこで待ってる」


「おっけー」

 

 アグニはそういって先に店を出た。

 外に出てスマホをいじっていると誰かに肩をたたかれた。ソラだろうか?


「早かったね」


 アグニがそう言って振り返るのと同時に、視界に固く握られた拳が飛び込んできた。咄嗟すぎて避けることもできず、拳はアグニの顔面にクリーンヒットした。

 鋭い痛みが脳天まで突き抜け、目には涙がにじんでくる。

 近くには人もいたし車の通る道もあったので全力の10%程度の力で縮地を繰り出してそいつと距離をとった。

 するとそいつは馬鹿にしたように鼻で笑ってから言った。


「お前やっぱり雑魚いなぁ、アッハッハッハッ!」


「誰だお前」


 涙がにじむせいで中々はっきりと見えない。しかし殴ってきた威力から考えると力はかなり強そうだ。


「おいおい、ちゃんと見てくれよ。じゃないか」


「突然殴ってくるようなやつは知らない!」


「そんなわけあるかよ、ほら! よく見てくれって!」


 段々と視界がはっきりしてきた。目の前にはアグニより少し背の低い男が立っていた。しかし顔の一部が機械の様な見た目で、左目がおかしかった。白目(強膜)の部分が赤いのだ。血走っているどころの騒ぎではないくらいに真っ赤なのだ。


「マジで誰だよ」


「まだわかんねえのかよゴミ野郎」


「お待たせー」


 丁度そんなタイミングの悪いところにソラが出てきてしまった。

 赤い目のそいつはソラを見てそして俺を見ると、ニヤッと笑ってソラに向かって踏み込んだ。


(ソラを助けないと!)


 そう思った瞬間、アグニの中で無意識にかかっていたリミッターが外れた。全力の縮地で飛び出し、無意識にそのままの勢いで赤目の男に雷鎚を放つ。

 雷の落ちるような轟音がした。衝撃で男の立っていた地面が砕け散り、周りに強い風が吹いた。


 そして気が付くと男は地面に倒れていた。男の下半身は砕け散り、上半身は地面にうつ伏せになっていた。


「…………や、やってしまった」


「大丈夫だよ! お、落ち着いて! 平気だから!」


「人を! 人をやっちまった!」


「ちゃんと見て! 血は出てない! 多分人じゃないよ!」


 ソラにそう言われてよく見てみると、散らばっている下半身は遺跡でとれる遺物アーティファクトのような感じだった。


「これ、なんだ?」


「ダァーハッハッハッッハッハ! 騙されてやんの! 馬鹿じゃねえか!」


 目をつぶっていたはずの赤目の男は目を開いてそう叫んだ。そして次の瞬間、空から人が降ってきた。


「今尾! こんなところで何をしているんだ! まだお前の体と遺物アーティファクトがなじんでないから部屋で安静にしてろとあれほど言っただろう!」


「いやちょっと面白くなっちゃって」


「帰るぞ!」


 そう言って白衣を来た男が赤目の男に触れると二人が溶けるように目の前からいなくなってしまった。周りに散らばっていた色々なものも元通りになっている。

 騒ぎが少し大きくなってしまったせいで集まってきていたギャラリーたちも、なんのために集まってきたのか忘れてしまったかのように、何事もなかったような様子で散らばっていく。


 アグニがソラのほうを向くと、ソラも困惑したような顔でこちらを見返してきた。




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