第31話 手術
目を覚ますと目の前には見慣れない大きな電灯があった。とても眩しい。視線を体に向けようとすると、体のどこかに激痛がはしった。しかしこのことから二つだけわかったことがある。
一つは体がどこかに縛られているということだ。腕も足もほとんど動かない。
そして二つ目はまだ死んでいないということだ。体を駆け抜けた激痛は今尾に苦痛だけでなく、生きていることも感じさせた。
ここはどこなのか、さっきの男はどうなったのか、体から伸びている無数の管は何なのか、幾つもの疑問が湧き上がってきたが、考えたところで全く分からない。今尾はすぐに考えるのをやめた。今更何かをしたいとも、これ以上生きていたいとも思わない。
そんな風に思った今尾が目をつぶると、重たいものがスライドするような「ギギギ」という音が聞こえ、次に足音が聞こえてきた。
足音は段々とこちらに近づいてくる。
「まだ起きないのか……どうしよっかな」
起きていることを主張すべきか少しだけ悩んだ後、今尾は目を開けて声の主の方を見上げた。声の主は背の低い男だった。
男は今尾の横で何かを見ていたが、ふとこちらを振り返り目を開いていることに気が付いた。
「おお、起きたか」
今尾は何も言わずにそいつの方を見ていた。すると男は感情のない顔でこちらを見ながら口を開いた。
「君は多分もうしばらくしたら死ぬ。だから私が助けてやる」
「…………」
「ただこれは実験的な手術であるから死ぬ可能性もある。まあ君は既に死んでいるようなもんだから、別にいいよな」
「…………」
「ただ成功すれば君は今までよりも格段に生物としての格はあがる。その場合、君を私たちの仲間にしてやろう」
「…………」
「じゃあ始めるのでまた寝てもらおうか」
「…………なんで言った」
「なにが?」
「勝手にやればよかっただろ」
「……私はそういう人間なんだ」
「意味わかんねえ」
そう言うとすぐに意識が朦朧とし始めた。
*****
「今日昼ご飯食べたら行ってくるから」
朝ご飯を食べながらアグニがそう言うと、母さんは驚いたように尋ねた。
「どこ行くの?」
「日本橋」
「そんなとこ何しに行くの?」
「帝国グループの研修受けに行くって言わなかったっけ?」
「初めて聞いたわよそんなの」
「あれそうだっけ? 言った気がするんだけどな?」
「聞いてないわよ」
「え~言ったと思うけどな」
「何時に行くのよ?」
「2時から開始だから、まあ1時くらい?」
「ふ~ん、忘れ物しないようにね」
「ほぼ何にも要らないけどね」
「そんなわけないでしょ、筆記用具とかなんか色々いるんじゃないの?」
「だって今日から実践の方の研修だもん」
「まあなんでもいいわ、頑張んなさいよ」
「ん」
アグニはSSCと帝国どちらもインターンに応募しどちらにも合格したのだが、SSCのほうは今尾の親のことがあったせいで何となく行きづらかったので、帝国グループの方のインターンに参加することにした。
帝国グループの研修は大体1年程度で、その後の3年間で結果を出せた者が正式に採用という形になっている。裁判のあった5か月の間に、いろいろな登録や座学、基礎体力研修の方は終わったので、今日からは実践の研修が始まることになった。
今までの研修はパソコンで講義を見たり、指導員の人に渡されたアグニ用のメニューをやって、週一の試験を受けるだけだったが、今回の研修からは他のインターン生と同じメニューをやるのだそうだ。
アグニは何ともないようにふるまっていたが、実際のところはかなり心配で、朝から心臓がバクバクいっていた。
――1時30分
アグニは帝国グループの本社ビルに到着していた。電車に乗るより歩いたほうが近かったので歩いてきたが、ビルに近づくにつれてアグニの緊張はドンドン高まってきていた。
そして現在、アグニはビルの入り口の前でうろうろしていた。
何度か来たことのあるはずのビルなのに、今回は緊張してしまって中々入れなかった。
しかしいつまでもグズグズしているわけにもいかない。アグニは心を決めて入り口をくぐった。中には大きなロビーが広がり、壁も天井も清潔感のある寒色系で統一されていた。流石に日本一の探索会社なだけあって、父さんみたいな体格の人がたくさんいた。
アグニは社員証をかざしてゲートを通り、エレベーターホールにむかった。スマホを確認してエレベーターに乗り込み、パネルに行き先を入力する。
ほかの人もそれぞれが近くのパネルで入力をすると、エレベーターが動き出した。何人かが降りた後で、アグニの目的の階に到着したので降りる。
アグニの降りた階には訓練場があり、ここの訓練場には世界でもトップクラスの設備が整っているらしい。あくまでも噂だが。
中に入るには社員証をかざす必要があるので社員証をかざすと、ピッという音がしてアグニの社員番号が目の前に表示された。
そして次の瞬間、ガションという音がして目の前の扉が開いた。
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