第46話:情熱はまるめてこねて16

「さて全員品物は披露し終わりましたね! それでは全ての品を食べ終えた審査員から結果発表をさせていただきます!」


各審査員たちが優勝者について話し合う。三人が頷きあったところで黒蜜姫が自分の目の前に置いてある和紙に筆を走らせる。

どうやらあそこに優勝者名を書くんだな。


「できました。それでは、『秋のお月見だんご大会』今年度の優勝は……」


黒蜜姫の声と共に、どこからかドラムロールが鳴り始めた。

参加者たちの唾を呑む音が聞こえる。

黒蜜姫の握る筆が置かれ、

和紙に書かれた名前がこちらに向けられた。


「優勝は……」


ごくり。


「優勝は、今年も伝統のみたらしだんごで審査員をうならせた、大将殿に決定です!!」



大将の連続チャンピオンの歴史がまた大きく刻まれた。

大将のもとに盛大な拍手が降り注がれる。

「おめでとう。やっぱりか~!」

「大将には敵わなねぇなぁ」

「ったく。ちったぁ手加減してくださいよ大将」


結果を聞いた参加者たちは落ち込みつつも、どこか満足し納得したような面持ちでうんうんと頷いていた。

祝いの言葉をかけられるも、大将はそっぽを向きながらまるい鼻をかく。

「バカヤロウ。俺が手を抜くんじゃなくてオメェらが精進しやがれ」

「ははは! 憎い奴だな相変わらず」

「よ! 頑固一徹!」

「大将にはまだまだ先頭を突っ走ってってくれないとなぁ」


さらに盛大な拍手が会場を大きく包んだ。


大将の優勝は今年に限らず毎年恒例の出来事ゆえか、参加者からは悔しさよりも清々しさを感じられた。



皆に囲まれる父親の姿をうるちは遠くから見つめていた。


「いいのかよ。大将んとこ行かなくて」

「ビター」

「夕日にお前のまるい顔が照らされて哀愁ハンパじゃねーぞ」

「……」

こちらに来たビターたちにうるちは声を大きくワハハと笑った。

「あーあ。やっぱ親父には敵わないや! 今度こそって思ってたのに。おいら完全に負けちゃった! 正直すっごくおいら悔しい!」


その笑顔はちょっと無理してるようで。

ビターは乱暴にうるちの肩に腕を回した。

「なァに先に俺らに言ってんだ。その言葉そっくりそのまま親父に聞かせてやれっての」

「そうよそうよー!」

メルトもにょきっとビターの肩から生えてきた。

「また生えた」

「遠くから意味ありげに見つめてないで言いたいことがあるなら面と向かって言ってきなさいよ。親子でしょう」

「ビター、メルト……」


二人の渇にうるちは困ったようにまるい頬をかく。そっとフィナンシェが前足でうるちの肩を撫でた。


「いやー、おいらさ、今まで好き勝手だんご作ってきたじゃん。だから……今頃本気になって、優勝できなくて、一人前に悔しがるなんて、きっと親父にまた呆れられるよ」



「勝手にオレの意見を決めてんじゃねぇよ」



「親父! いつの間に」


「このバカ息子が」

「あいてっ!」

ズカズカ迫る大将は容赦なく落ち込む息子の頭を一発はたいた。

「ひどいや親父! 落ち込んでる息子にあんまりだろ!」

「オメェのだんご、ありゃたまげたわ」

「え?」

「姫様たち審査員の顔、俺の作るだんごにねぇ表情だった。途中から出たヘンテコロボには呆れたが」

「ヘンテコロボじゃなくてアゲアゲだんごマシーンだよ」

「まぁ、なかなか面白いんじゃねぇの。 あの揚げだんごには楽しさが込められてた。食べる上で一番大事なもんじゃねーのか心が弾むってのは」

「親父……」

「お前は何にも縛られず自由にお前の持ち味を生かせばいい。その方が性にあってる」



「その通りですわ」


豪奢な袖がひらりと舞った。

黒蜜姫がこちらに向けて歩いてきた。手に持つのは、一本の筒。


「姫様」

「我々からこれを。うるち殿、貴方に」

「おいらに? ……あ」


渡された筒の中には、『審査員特別賞』と記された表彰状が入っていた。


「姫様これは」

「とても楽しい一品でしたわ。我々度肝を抜かれましたの。貴方にはこれからも期待しています」

“次はおかわり用も作るでごわす~!! ”隅の方に手形と共にチャーミングな寄せ書きまで添えられていた。


「どうしよう……おいらすっごくうれしいや!」


武骨な手がわしゃわしゃとうるちの頭を撫でた。

「俺も否定から入らねぇでオメーの良さを認めてやればよかったな。悪かったな」

ぎこちない手つきを頭に感じながらうるちは言った。


「親父、おいらもビターたちとだんご作りして分かったよ。伝統や革命とかそういうことの前に、だんごを食べる人たちのことを思いやるのが大前提だったんだ。一番大事なことなのに、伝統を越えるとか新しいことをやらなきゃとか、大切なことを見失ってた。親父のだんごに対する情熱わかった気がするよ」


「オメーにわかるのは十年早ぇ。……今度は一緒にだんご作りの特訓するか」


「うん!」


夕日の沈むなか、二人はかたく握手した。


「来年こそお父上を越えられると良いですわね」

「あー黒蜜くろみっちゃん、うるちに肩入れしてるー!」

「まさか! わたくしはあくまで平等な審査員ですわ」

「ほんとかな~?」


あはは……

和やかな空気が流れていた。





「ッアアアア! わかっちゃいたけど悔しいィィイイッ!!」



ビターを除いて。


ビターにとっては初の大会参戦。

優勝はめっちゃしたかった。


「そりゃぽっと出のパティシエにお国の伝統菓子で優勝持ってかれるほどみたらしの国はヤワじゃねェと思うけど! うるちもなんだかんだ審査員賞だし俺だけ悔しいィアアァ……!!」


一人打ちのめされていた。


「そうだメルト姫。明日お城においでなさって。振る舞いたいお茶菓子がたくさんあるの」

「うひょー行く行くー!」

「フィナンシェちゃんも来てね」

「え、自分も良いんですか……?」


夕日に吠えるビターだけハブられていた。


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