第18話:トロピカルパラダイス!4
「久しぶりだな。この感じ。デコレート王国以来だ」
「なに呑気に懐かしがってるのよ。こんな状態で」
「そうですよ。ビター様」
ビターたちはおっさんと同じように、蔓でぐるぐる巻きにされていた。手と足、胴体とご丁寧に三ヶ所しっかりと拘束してある。フィナンシェは前足と後ろ足、と四足歩行にはあんまりな縛り方だ。
エルフたちによって、ビターたち全員が蔓で縛られ島の隅っこの何もない草っぱらに置き去りにされてしまった。
何も出来ないと踏まえたのか、全員を拘束した後、エルフたちは見張りを置くことなく姿を消してしまった。
「こんなところに放っておいて、飢え死にしたらどうしてくれるのよ!」
メルトが叫ぶ。
草っぱらの遠くの方には観光客のドクロらしきものが転がっているのが見えたが、ビターはあえてそれを言わない。
「すいやせん。自分が人質になってしまったばかりに」
「いや、どうせ奴らには勝てなかったし……というか」
ビターとメルト、フィナンシェの六つの瞳がおっさんをロックオン。
「他に謝ることあるでしょう!?」
「フルーツアイランドに行ったことあるんじゃないんですか? 人が住んでいるなんて初耳ですよ」
「何がメロンが甘かっただ、あぁ?」
二人と一匹に責められおっさんは押し黙る。
「こいつを生贄にって言ったらエルフたち解放してくれるかな」
「ひえ~、すいやせん、すいやせん!」
「しかし、暑いわね……」
原っぱに放られて三時間。
ジリジリと真夏の太陽が肌を焼く。手足の自由がないため水も飲みに行けない。
陽光に当たるだけでも体力は削られていく。そのうえ水分の補給も不可能。どこにも移動も出来ないしアクションも起こせない。
ビターたちは究極に暇だった。
「デコレート王国の縄よりも頑丈だぞ、これ」
デコレート王国で捕まった時のことを思いだす。
あの時もこう、ぐるぐると巻かれて玉座に転がされたっけ。
あれが今こうしてメルトと出会って旅をするはめになるとは思わなかった。
走馬灯か……否。
ただ、やることがないため、ひたすら過去を振り返ってしまう。
「自分たち、このまま餓死して終わりなんですかね……」
「あぁ、もっとフルーツ食べとけばよかった……」
「フルーツアイランドなんて来なければ……うぅ」
暑さと飢えにやられビター以外はぐったりしている。
心なしか発言もネガティブなものになってきた。
ビターは「しっかりしろ」と鼓舞するが、それも聞く耳もたず。
メルトもフィナンシェもおっさんも、みんな目が死んでしまっている。
「くそ、本当にこのまま放置するつもりかよ!」
その時、
ぐううぅぅ……
誰かの腹が盛大に鳴った。
「誰だ? 今の品のない腹の音は」
「ビター、あんたは腹の音まで品位に欠けるのね……」
「俺じゃねぇ! 今のは、もっと遠くから」
はっと、視線を感じて音のした方を見る。
「「きゃっ」」
軽い音を立てて尻餅をつく音が二つ。
そこには、歳が六つか七つくらいの子供が二人、怯えたように肩を抱き合っている。
その耳はツン、と尖っている。
エルフの子供たちがこちらを見ていた。
「エルフ……の子供?」
ビターが言うと、エルフの子供二人は揃って「「ひっ」」と声をあげた。
「ころさないで」
「われらおいしくない」
二人はぶるぶると震えている。
「あんたのヤンキー顔が怖いからビビっちゃってるじゃん」
メルトがビターに注意する。
どうやらビターの眼力にやられたようだ。睨んだつもりはなかったのだが、顔を怖がられて少々傷つく。
「……なにもしねーよ。てか、なにも出来る状態じゃないし」
「そうだ! ねぇ、この蔓ほどいてくれない? 私たち捕まってるの」
メルトが子供たちにお願いする。
二人は黙ってお互いの顔を見つめ合う。
「どうする?」
「どうしよう?」
相談している。
よく見ると、この子供エルフ二人は顔が瓜二つだ。兄弟だろうか。
「「われらふたご」」
声を揃えて二人が言う。
「おお、心が読めるのか!?」
ビターは驚きから声が大きくなってしまった。
発せられた大きな声に双子はビクっと体を揺らす。
「……こころよめない」
「や、やんきーがわかりやすいかおしてるから」
「ああ、そう……」
「おこる?」
「きれてしまう?」
おどおどする双子。
「キレねーよ。子供に手をあげるような男じゃないよ、俺は」
「やんきー、こわくない? ひとまずあんしん?」
「やんきーなにげにいいやつ?」
こんな幼い子供にまでヤンキー呼ばわりされてる俺って。しかも微妙にナメられてる気がするのだが。
双子は警戒心を解いたのか、こちらにトテトテと近づいてくる。
「われジュレ。あにのほう」
「われジャム。おとうとのほう」
「「しくよろ」」またもやハミング。
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