第43話:情熱はまるめてこねて13
ビターの皿を見て審査員たちは目をまるくした。
「“半半だんご”ですって?」
だんごは上段二つが餡、真ん中がずんだ餡、下段二つがみたらしとなっている。
甘さ控えめですっきりした味わいの粒餡を上段に、次に変わり種のずんだ餡で味の変化をつける、そして濃厚なみたらしで最後を締める。
「いろんな味を一本の串で味わえる欲張りだんごだ!」
みたらしの園の名産品は国の名称通りみたらしだんご。
この大会にみたらしだんごで挑戦する参加者が多いのは謂わずもがな。
同じものを食べ続ければ飽きがくる。
いくら味に個人差があるといえ、みたらしばかり食べていたら他の味が恋しくなる。
そこで
味に変化をつけ視覚にも味覚にも他とは違うインパクトを残す。
「これは面白い発想ね」
「ちょうど餡が恋しくなっていたし嬉しいね。どの味も差別化できているし味もちゃんと美味しい」
「新鮮かつ斬新な発想! 体をかわされたでごわす!」
好評だ。
なかなかの反応を貰えた。
今までにない発想で審査員側に爪痕を残せたことに、ビターは手応えを感じた。
(おっし! おっし!)
ビターは控え席に向かいながら小さくガッツポーズをした。
「ビター。あんたさ、七変化とかいいつつ箸休め狙ったでしょ」
「う、」
お茶を運ぶメルトにすれ違い様に確信を突かれ言葉を詰まらせる。
「ずっと一緒にいるとわかってくるのよあんたの作るスイーツの狙いが。セコい奴ね~」
「うっせ! コンテストにしろオーディションにしろ印象に残ったもん勝ちなんだよ!」
「はいはいインパクトインパクト。そーいえば、うるちはまだ見ないけどあいつ大丈夫かしら?」
「うるち殿ならあちらですよ」
後からやって来たフィナンシェが前足でうるちの場所を示す。
「え、あ、ほんとだ」
「静かすぎて気づかなかったぜ」
うるちは真剣な顔つきでだんごをこねていた。傍らにはノートが置いてあり文字と数字の羅列が見える。
「すごい、真剣そうな表情」
「優勝するには
ざわざわと、
会場がざわついた。
「噂をすりゃあ優勝候補のおでましだ」
参加者の誰かの唾を鳴らす音が聞こえた。
審査員席に大将が足を運ぶ。
その手には完成されたみたらしだんごの皿。
控え席に座る参加者も調理中の参加者たちも動きを止め審査員席に視線を向ける。
連続優勝者の品の実食。
参加者にとってこの瞬間が一番畏れであり注目すべき瞬間。これを食べた審査員の反応次第で自分の位置が大きく変わる。
「どうぞ」
恭しく審査員席にだんごの皿を並べる大将。
差し出されたみたらしだんごを口に運び一口、二、三と咀嚼すると黒蜜姫は口元を綻ばせた。
「さすがですわね。甘さとしょっぱさの絶妙な塩梅、コクのあるまろやかなとろみ……とても美味しいわ」
「これはすごい……絶品だ。一言で表現できない感動がこの一品に籠められている。この味を待っていた!」
「うまいでごわす! 今までのだんごを越える美味しさでごわす! どすこーいッ!!」
あんころ山関は何故かツッパリを始めた。
全審査員が満足そうに首肯いていた。
今までと明らかに違うリアクションに参加者たちからは呆けた声やため息が漏れ出る。空気がピリついていた。
「さすが大将だな。空気が変わった。こりゃヤベーかも」
どこかのんびりしていた会場に緊張感が走る。
品を出し終えた参加者は祈るようなポーズで椅子に座り、調理台に立つ参加者からは焦りを感じた。
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