第42話:情熱はまるめてこねて12

いよいよ調理開始だ。


「大丈夫だ……教えてもらった通り、落ち着いて」


深呼吸をし、ビターは生地を作り始めた。



「まあまあですわ」


ビターが調理してる間、審査員席からその言葉が聞こえてきた。


ビターより先にだんごを完成させた参加者が審査員から評価を受けている。


「いたって普通のみたらしですな」と、こめこ先生。

「美味しいでごわす。いくらでも食べられるっす!」と、あんころ山関。


そして。


「味も食感も平凡。美味しいけれど美味しい以上の感動が足りませんわ」


黒蜜姫がけっこう辛口だった。


「おーまい……」

参加者は肩を落としとぼとぼと結果待ち席に力なく座る。

一度品を提出すればあとは最後の結果発表を待つのみ。

一見審査員の腹の具合から早く提出した者が有利にみえるが審査員たちのだんごを見る目は思ったより厳しい。


(早い者勝ちと焦って作ってもいけないってワケか)

それを踏まえてか他の参加者も落ち着いた手つきで作業をしている。これは常連参加者だから分かる経験則だった。

(たしかに、三時間もあるんだ。焦らず納得いくまで完成度を上げた方が良いな)

ビターも慎重に生地を練る。


「お茶です」


コト……と審査員席の方で聞き覚えのある声がした。

そこにはお茶を差し出すロバの姿。


フィナンシェが審査員のお茶を注いでいた。


「えーッ!? フィナンシェ!?」


「どうもビター様。実は手伝いを頼まれまして」


「私もいるわよーッ!」


メルトもいた。

メルトとフィナンシェはウサギの耳のカチューシャを着けている。

「お月見にはウサギがつきものだそうです」

フィナンシェが言う。お前、ロバ耳にウサ耳……


メルトは黒蜜姫の湯呑みにお茶を注ぐ。

「姫の私にお茶注いでもらえるなんて光栄だと思いなさい」

「まあ、貴方はお姫様なのですか」

メルトはドヤ顔をして名乗った。

「聞いて驚きなさい! 私はデコレート王国の姫・プリンセスメルトよ!」

「まあまあそれは。遥々ようこそみたらしの園へメルト姫。是非この国で楽しんでいってくださいね」

自分以外の姫を見て嬉しそうに頬笑む黒蜜姫。

「そうだ。これお食べになって」


黒蜜姫は懐から星の形をした粒状の菓子が入る小袋をメルトに差し出す。


「わーいいの!? やったー!」

金平糖こんぺいとうですわ。我が国伝統のお菓子の一つですの。お気に召したらお土産にも是非お渡ししたいわ」

「ありがとう黒蜜くろみっちゃん!」

「まあ可愛らしいあだ名」

「ビターっ! 貰っちゃった! 大和撫子半端じゃないわ!!」

「お駄賃貰ってんじゃねエエエェェッ!」


バリボリ金平糖を頬張るメルトにビターは調理台から叫ぶ。

まったくうちの姫は品性の欠片もない。


「つーか懐に間食隠してる姫もどうなんだ」

姫ってのはどいつもこいつも食い意地はってる生きものなのか?


***


その後の姫率いる審査員たちの評価は続いた。


「これも美味しいわね」

「こちらの品も美味ですな」

「このだんごもウマいでごわす!」


(一時間後)


「これも美味しいわ」

「こちらもなかなか美味ですな」

「このだんごもウマいでごわす!」


(二時間後)


「これも美味しいわ」

「こちらも、まぁ美味ですな」

「ウマイでごわっすっす!」


審査員は同じ反応のエンドレス状態だった。



(……これは、きたか?)


開始から一時間を過ぎた頃、黒蜜姫たちの反応が均一なものに変わってきたのをビターは見逃さなかった。


(同じものをずっと食べたら絶対訪れる瞬間がある)

そう、ビターはその瞬間を待っていたのだ。


審査員たちの“飽き”がくる瞬間を!


「喰らえ俺の変化球!」


審査員席に完成させただんごを並べる。


「むむ! これは」


「上段と下段、さらに真ん中のだんごの色も違う!?」


「一つの串に三種類のだんごが……三つとも味も違うわ」



「これぞだんごの七変化、俺の考えただんご“半半だんご”だ!」


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