第44話:情熱はまるめてこねて14

大将が品を出した後、参加者たちは次々と玉砕していった。


完全に大将に流れを持っていかれてしまった。


審査員たちの反応はほぼ均一。

たまに表情が変わるものの、飛び抜けて良いものも悪いものも出てこない現状で進み大会は残すところ三十分となった。


ほとんどの参加者がだんごを出し終え、残りあと三十分。


調理台に残るのはなんとうるち一人だけだった。


「あいつ、気の毒だな」

待ち合い席からそんな声が聞こえてきた。席に座る参加者たちが未だ調理台に残るうるちを見て言った。

「連続優勝者の息子さんなんだろあの坊や。しかも先に親父に流れを持ってかれて残すところあの坊や一人。不利だよ」

「可哀想だけどこれが勝負の世界だ。来年も懲りずに来てほしいもんだね」


憐れみの視線が複数向けられる。


(何やってんだようるちの奴。時間ねェぞ間に合うのか……!?)


見ていてこっちが気が気じゃなく激しい貧乏揺すりをするビターに両サイドの参加者が怯えていた。


***



『さあ制限時間が迫ってきました! 白熱の秋のお月見だんご大会もいよいよ大詰め! 今回は一体誰が王者になるのか!? まだ品が完成していない参加者は急げ~!!』


「よし行くぞ!」

最後の呼び掛けアナウンスがかかると共にうるちが調理台から離れた。

自信満々で歩くその手には完成されただんごの皿……じゃない!?


「えーッ!! あいつのだんご真っ白じゃねーか!?」

「みたらしも餡もかかってない。ただの丸めた餅じゃない! なに考えてるのあいつ!?」

「うわっお前ちゃんと持て!」

「うぎゃーリーゼントが顔にささった!」


メルトが運びかけた急須をひっくり返しそうになりビターが拾う。


これには会場にいた人々も豆鉄砲喰らった鳩フェイスになっていた。


ただ丸めただけの餅が串刺しにされ皿の上に乗っている。


だんごは真っ白。

ノー焦げ目。


どう見ても何も味付けがされていない。


「血迷いましたかねうるち殿」


フィナンシェがたらりと汗を流す。「大将殿に勝てないと分かってご乱心になられたと」

「えー!? ヤケってこと!?」


まさか無味のだんごを審査員たち(しかも姫君含む)に振る舞うつもりか!? 不敬すぎる!


「下手したら処刑されるぞあいつ! どうする!? 止める? 止めるか!?」

「ちょっと待って! 見て! うるちの顔自信満々よ!!」


「は? 本当だ! 目が輝きに満ちている!」


うるちの目はいつになくキラキラ輝いていた。

黒く豆粒のようにつぶらな瞳はやる気に満ち溢れ、口元も自信からか口角がつり上がっている。


「おまちどう!」


声を張ると皿を抱え審査員席までやって来た。

「こちらがおいらの品! 珠玉のだんごです!」


「これは……ただのお餅?」

「これはいったいどういう……?」

「ごわす?」


どう見ても味付けされてないだんごを前に出され黒蜜姫、こめこ先生にあんころ山関も戸惑い一色だった。

「これが、貴方の作る、珠玉の品ですの?」

ぽかん、と口を開ける姫様。お間抜けで可愛い。

しかし何の味付けもされてない丸くこねられただけの白い餅が串に刺された状態で皿上に鎮座していれば当然の反応だ。


「いいえ“ここから”がおいらのだんごの見せ場です! 出でよ! 『アゲアゲだんごマシーン』!!」



ウィーーー~ン。


「な、なんだこいつは」


寸胴なデカい人型の機械が歩いてきた。

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