第34話:情熱はまるめてこねて5
「紹介するね、おいらの親父さ。なんと『秋のお月見だんご大会』で優勝しているだんご職人なんだ! みんなからは大将って呼ばれてるんだ」
何も知らないウルチはビターたちに自分の父を紹介する。
そして今度はビターたちの紹介。
「親父、こちらだんご大会に出場するビター。隣の女の子がメルトでその隣のロバがフィナンシェ」
「……」
黙り混む大将。
「……どうも」
「また会ったわね……」
ビターとメルトは気まずさを感じながらも挨拶をする。
「……懲りない奴らだな」
親父と呼ばれた大将は眉間に深いシワを刻んでこちらを睨む。
「え、え? みんな顔見知りだったりするの?」
険悪な雰囲気の中でウルチだけが空気を読まずキョロキョロと三人の顔を見た。
何も知らないウルチの為にビターは今までの経緯を話した。
「へぇ~、ビターたちは最初親父に教わりに来たんだ」
「あぁ」
「一刀両断でつまみ出されたけどね」
「親父は頑固者だからね。そう簡単には教えてくれないよ」
三人の会話を聞いて大将は片眉をつり上げた。
「おい。さっきから聞いてりゃ俺に問題があるような言い方じゃねぇか」
「? 他に何があるのさ」
悪びれもなくウルチが聞くと大将は大きく舌打ちをする。
「俺は頑固だからだんごの作り方を教えないんじゃねぇ。そこの不良と紅髪の娘っ子、お前らから真剣さを感じないから門前払いしたんでぇ」
「……どういうことだよ」
大将の言葉にビターは瞳を鋭く尖らせる。聞き捨てならない。
自分はスイーツに対していつだって真剣だ。
ビターの視線にも怯えることなく大将はふん、と吐き捨てるように言う。
「そんなチャラチャラしたなりの奴らが真面目にだんごを作れるとは思えねぇな。どうせ暇つぶしのお遊びでやろうって口だ。そのふざけた外見がすべてを物語ってる」
カチーン。
ビターの中で何かが切れる音がした。
「この堅物野郎!」
ビターが大将の胸ぐらを掴む。
「わ、わ」とウルチが狼狽える。
慌てる息子と逆に大将は落ち着いていて、冷たい目でビターを見つめる。
「血がのぼってすぐに暴力か。チャラチャラした奴がしそうなこった」
「人を見た目で判断するんじゃねェ!! 俺は真剣だ! スイーツに情熱を捧げてる。メルトだってスイーツが大好きでその気持ちは本物だ。見た目だけでお遊びだの暇つぶしだの言わないでほしい」
ビターの瞳は炎が燃えるようにメラメラと闘志に満ちていた。
それから胸ぐらを掴む手を離し、深く頭を下げる。
「俺たちは本気だ。だから『秋のお月見だんご大会』に優勝するためにダンゴの作り方を教えてほしい……お願いします!!」
「お願い大将!」
「自分からもお願いします」
メルトとフィナンシェも続けて頭を下げる。
「……」
大将は三つの下がる頭を見た後、しばらく黙り混み、
「ふん、腰を低くしたところで俺は面倒見んからな」
そう言って奥の部屋へ入っていってしまった。
取り残された四人の中で沈黙が走る。
「ま、まあもともとおいらが教える約束だったじゃん? 親父に断られたからってだんごが作れなくなるわけじゃないし」
ウルチは床を見つめるビターたちにフォローを入れた。
「そうですね……」
フィナンシェが相づちを打つがその目はいつになく覇気がなく、目蓋が重そうに下がりきっている。
「あの大将……だんごみたいに丸い顔してるわよね」
突然メルトがどうでもいいようなことを呟く。
断られたショックからか何を話していいのかわからないのだ。
「やっぱずっとだんごばかり作ってると似てくるのかしら……」
「そ、そんな飼い主とペットじゃないんだから」
「あーアレ不思議だよな」
ビターが便乗。
「飼い主が似てくるのかペットが飼い主に寄せてくるのか」
「不思議ですよね」
しんみりと。
三人は現実逃避ばりに全力で脇道にそれた話題をしだす。
「もうみんなしっかりしてよ! オイラが一緒にだんご作ってあげるから! ね?」
「じゃあウルチ、だんごの生地には何の粉を使うのか言ってみろ」
「え、粉? そんなの時と場合によっての気分さ。ある時は小麦粉、またある時は強力粉に中力粉を合挽きして……」
「いや、もういい」
「私も詳しくないけど、絶対違う気がするわそれ」
「不安しか感じないレシピですね」
全員にフルボッコされたウルチはしょぼんと隅でうずくまった。
ウルチの説明を聞いてビターは確信した。この少年には頼れない。危うすぎる。
「あれじゃ何回頼んでも教えてもらえないなぁ」
ビターがへなへなとその場にしゃがみこむ。
ウルチが教えてくれるにしても、あのヘンテコだんごが出来上がる。それだけは勘弁だった。
ビターは伝統ある本格的なだんごを作りたいのだ。
自分は生地の作り方もみたらしの味付けの仕方もわからない。一から何も知らないから何も始められない。
仮にウルチに教えてもらうとしてもコイツは最初からなんか違う気がする。
ビターは基本が知りたかった。
「どうしたもんか」
「とりあえず泊まるところが決まってないならうちに泊まってきなよ。寝床くらいは空いてるからさ」
「ウルチ……ありがとな。世話になるぜ」
ウルチのお言葉に甘えてビターたちはウルチ宅に泊めてもらうことにした。
「ぐがあぁぁぁ」
「うるせぇ……」
隣のメルトのいびきが猛烈だった。ちなみに貸してくれた部屋は六畳間で三人で雑魚寝。かなり狭い。
「メルト様も長旅で疲れがたまっているんですよ」
メルトを挟んで向こうで寝るフィナンシェが言う。
「今日はいろいろありましたから」
「いや、こんな若いうちからこのいびきは逆に心配になるぞ」
無呼吸とか云々。
「ビター様、これからどうするつもりですか?」
「アァ?」
「あの調子だと大将殿はまともにだんごの作り方を教えてくれそうにありませんよ」
「そうだな。あの頑固親父に教えを乞うのは至難の技だな」
うーん、と唸る。
「……あ!」
ピコーンと頭上でひらめく音が鳴った。
「一か八か、アレをやってみるか……」
「何か打開策でも?」
「あぁ。パルフェール図書館でこの国について書いてあった記事を思い出した」
この国の伝統、誇り、文化。
そして職人の多いみたらしの園の人間の気質。
あの親父に通用するかわからないが……
「とりあえずやってみるしかねェよな」
ビターはそう言うと、瞳を閉じた。
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