第8話:知識はチョコレートに混ぜて2
「食った食った」
朝食を食べ終えたビターは満たされた腹をさすり手紙に書かれていた広場までやって来た。
広場は町の中央にある。
食べ物や衣類、特産品のチョコレートを販売しているお店や食べ歩きが出来る軽食の屋台が並び、人々の出入りも激しい。
多くの人々で賑わいを見せている広場だが、中でも一番の名物は巨大ともいえる豪奢な造りの大きな噴水だ。
そのダイナミックな噴水はビターたちの泊まったショコラの夢亭の窓からも見えたので広場まで迷わずに来れた。
ふんわりと広場から漂うチョコレートの香りを嗅ぎながらメルトを探す。
「あ、あれだな」
特徴的な金色と桃色が溶け合った色の頭がヒョコヒョコと動いているのを発見。
ビターはメルトに声をかけようとすると、メルトの隣にもう一人立っていることに気付く。何か話をしているようだ。
(なんだナンパか?)
メルトの奴も声をかけられるお年頃か。
アイツも黙っていれば可愛いからなー、などと呑気に考えていたビターだがメルトに何かあったら大変だ。
メルトは一応王国の姫である。
いくら家出中でもナンパで大変な目にあわせるわけにはいかない。
そっと少し離れた木の陰からメルトたちの様子を窺う。
「そこの可愛いお嬢さん」
メルトに声をかけているのは見事な金髪を艶めかせた顔立ちの美しい少年だった。
「よかったら俺の作ったフォンダンショコラを食べてかない?」
蕩けるような笑みでメルトに話しかける金髪少年。
その微笑みは切り取れば絵画に出来る美しさだがやっていることはナンパに近い。
ていうか、食べ物を食べさせるナンパって何だ。
もっともなツッコミを胸中でしながらメルトの方を見る。
メルトは顔を赤らめて照れている。
そしてその手は金髪少年の作ったフォンダンショコラへ向かっている。
(おい、イケメンだからって騙されるなよ。こいつはただのナンパ野郎だぞ!)
木陰で彼女を見守っていたビターだが、金髪少年の言動に不審さを感じたビターはメルトの元へ向かった。
「おい、メルト」
「あ、ビター」
メルトの手にはフォンダンショコラの乗ったお皿があり、今にもそれを頬張り出しそうな勢いだった。
「……」
「……」
お互い無言で見つめ合う。
今がどんな状況か説明しづらいのだろう。ただ単に説明するのが面倒くさいだけかもしれないが。
面倒くささが勝ったのかフォンダンショコラの誘惑に負けたのか、しばらく見つめ合った後メルトは「いただきまーす」とフォークを口元へ運ぶ。
ビターは倒れそうになった。
「オイオイオイ! 知らない人にフォンダンショコラを貰っちゃ駄目だろ!!」
「そんな限定的な教え受けてないわよ……」
ビターの説教にメルトは渋い顔をして耳を塞ぐ。
「それよりもビター聞いた? 可愛いって言われちゃった」
顔を赤らめてウフフっとにやけるメルト。あれはイケメンに照れているわけではなかったのだ。
「いっちょまえにイケメンにときめいてるかと思いきや……」
「私が夢中なのは私自身とスイーツだけよ」
「ああ、そう……」
「ってことでいただきまーす」
「だーから食うなっての!」
メルトがフォンダンショコラを口に入れようとした時、ビターは咄嗟に自分の口にそれを入れた。
全てを食べ終えもごもごと咀嚼をすると、メルトは恨めしそうにビターを睨んだ。
「ビタ~!? なんで全部食べちゃうのよぉ! 私の為のフォンダンショコラだったのにー!」
「そうだそうだ!!」
メルトに続いて金髪少年まで怒り狂ってビターの胸ぐらを掴みかかってくる。
「なんてことをするんだ君! 僕は女の子の為に作ったのに……!」
ウキーッとヒステリックにハンカチを食い縛る金髪少年。
なんだこいつと思いながらビターは諭すように言う。
「俺は毒味係なの。お前の口説いたこいつは結構なお偉いさんだから、その辺のもの食わせるわけにはいかないんだ」
「わりーな」と金髪少年に謝罪しビターは未だ地団駄を踏むメルトを引き連れショコラの夢亭に戻った。
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