第23話:トロピカルパラダイス!9
フィナンシェが巨大な竜巻“神風”を吸い込んだ。
「な、なんだと!?」
「そうか! そういえばコイツ
口の中にみるみる吸収されていく竜巻。
そして、フィナンシェは“神風”をすべて呑み込んでしまった。
「おおっ! スゲーフィナンシェ!!」
「やるじゃない!」
メルトが口を膨らませるフィナンシェを撫でる。
だが、なんだろう。
フィナンシェの顔色が若干悪い。
「うぇぇやっぱ竜巻はムリぃ……!」
フィナンシェの口から竜巻が逆流してきた。
「いや無理なのかよ!」
喜んだのも束の間、フィナンシェは嘔吐するように身体を小刻みに震わせえづき始めた。
「おぇぇ」
しかも彼が吸い込んだ竜巻は小型の竜巻になって小出しに出てくる。まるでスイカの種飛ばしのように。
「フィナンシェ!? 大丈夫!? あなた無理なんかするからっ」
「うえぇすみません」
小型の台風は止まらない。
しかもさすが元“神風”。
小出しにされる竜巻は小型だが地面が抉れるほど威力が強い。吐き出される一つが避難中のエルフにあたった。このままだと二次被害が生まれる。
「フィナンシェ! どうせならタタンに向かって吐け!」
「え」
冷や汗を浮かべるタタン。
「かしこまりうえぇ~」
「うわッ! やめろ貴様ーッ!!」
己の出した竜巻に逃げ惑うタタン。
どうやら別の意味で攻撃を受け止めたくないらしい。
しかし、竜巻の一つがタタンの胸の水晶をかすった時、タタンの顔色が変わった。
「ーーッ!」
タタンは胸の水晶を咄嗟に腕で覆い隠したのだ。
この反応にメルトははっと気づく。
「もしかして、胸の水晶がタタンの弱点じゃないかしら!?」
「! そうかも」
「まじょともこれではなしてた!」
「ビターッ! 水晶よ! 水晶を狙ってパーンチ!!」
「おっしゃー任せろッ」
弱点が分かればこちらのものだ。
ビターは空中で竜巻を受けるタタンに突っ込んでいく。
フィナンシェのゲロ……竜巻を器用に避けながらもタタンのもとへ辿り着き、水晶に向かって拳を突き出した。
しかし、拳で割れるほど水晶は柔くなく、それどころかあまりの硬さにビターの拳が割れそうだった。
「いってエェェ!!」
拳が真っ赤になる。じんじんと痛みが響き思わず右手を押さえた。
「馬鹿め、素手で割れるわけがないだろう」
フハハハハ!
タタンが不敵に笑う。
「こうなったら竜巻で……水晶を狙うしか……うぇぇ」
「フィナンシェ! 無理しないで」
顔色が蒼白になっていくフィナンシェに限界を感じる。
フィナンシェを介抱するメルトの前に、人影が現れた。
「ワレワレニマカセロ」
「あなたたちは!」
メルトたちの前に現れたのは、弓矢や槍を持ったエルフたちだった。先頭には長老がいる。
「ワレラノユミナラ、ソラヘモトドク」
「ワレラノユミ、マリョクアル。スイショウモワレル」
「協力してくれるの?」
メルトがエルフたちを見つめる。
「あなたたちにとってタタンは恩人だったはずでしょ。騙していたとはいえ、倒すことなんて出来るの?」
その声は心配から生まれるもので。メルトは心からエルフたちを思いやっていた。
「オマエラ、イイヤツ、ワカッタ」
長老が弓を引き絞る。
「ダカラ、イッショニタタカオウ」
長老にならい、他のエルフたちも弓を引き絞り、一斉に放つ。
弓矢が雨のようにタタンに降り注ぐ。
だが、そこにはビターもいて。
「うおあァ!?」
弓が次から次へと自分に向かって飛んでくるので、ビターはひっくり返りそうになった。
足もとの竜巻ボードで器用に避けるも脂汗が噴き出した。
「あああ危ねーだろ!」
「スマンヤンキー」
「なんで長老にもヤンキー呼ばわり!?」
しかし器用に避けたのはタタンも同じ。
水晶に矢は一つも当たらない。
「やんきー!」
「これつかえ」
「!? おおっ」
ビターの右手に向かって一本の矢が滑り込んできた。
それを空中でキャッチする。
声のした方を向くと、長老がビターに向かって弓を打っていた。
ジャムとジュレが隣にいる。
「われらのまりょくこめた」
「いっぱついったれ」
手に収まる矢を見ると、矢の先端には竜巻のような風が巻きついていた。
どうやら風の魔力が込められているようだ。
「頼もしい限りだぜッ!」
ビターは矢を持ち、タタンへ立ち向かう。
「させるか!!」
タタンは太い尻尾でビターを凪ぎ払おうとする。
風を含んだ勢いで尻尾がこちらに迫ってきた瞬間、ビターは足場の竜巻ボードから飛び去ってタタンの頭上へ舞い降りた。
「これで終わりだーーッ!!」
腕を振り上げ、矢をタタンの胸の水晶に突き刺す。
風を巻いた矢は鋭く水晶に食い込み、水晶は粉々に砕け散った。
「お、おのれ!! 私が、人間なんかにぃィィ……ッ」
タタンは最後にそう言うと、ドロドロの紫色の液体になって消えてしまった。
「おっしゃぁァァッ! 勝利!」
ビターは叫んで喜んだ。
が、今さら自分に足場がないことに気づく。
急に重力が仕事を始めた。
「俺も死ぬ~!」
まっ逆さまに落ちるビターを二つの小さな竜巻が受け止めた。
「ビターっ」
メルトが駆け寄る。
「あんた無理しすぎ! 飛び降りるとか何考えてんのよもーっ」
地面に座り込むビターに、力のない拳で何回も叩くメルト。
「やんきー」
「だいじょうぶ?」
ジュレとジャムを始め、長老や他のエルフたちも駆け寄ってくる。おっさんも「もう終わった?」とビビった顔で後からついてくる。
「あぁ、無事だ。タタンも討伐完了だ」
「やった~! これで島のフルーツも食べ放題ねっ」
「食いつくとこそこかよ……」
嘆息するビターの目の前に手が差しのべられた。
「ウタガッテスマナカッタ。ソシテ、アリガトウ」
手を差し出したのは長老のエルフだった。
他のエルフたちもビターやメルト、フィナンシェたちにお礼を言った。
ビターは手をとり、頬をかきながら言った。
「礼とか、アイツらに言ってやれよ」
目線の先にはジュレとジャム。
「ジュレとジャムがタタンを怪しまなければ、俺たちだって助けなかった。アイツらがこの島を救ったんだ」
「やんきー」
「ぎりにんじょう?」
「うっせ」
ジュレとジャムにつつかれ、ビターは照れ臭そうにそっぽを向いた。
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