第22話:トロピカルパラダイス!8
幽霊を目撃したかのような面で長老がビターを見る。
「ショケイサレタハズデハ……!」
「へッ。ちょっとした小技で生き延びてやったのさ」
すると、処刑場の下から声が聞こえてきた。
「私たちも」
「いますよ!」
メルトとフィナンシェの声だ。
なんと、メルトたちは処刑で落とされた山の底からビヨーン! と文字通り飛んできたのだ。
「自分は下で待機でよかったのにー」
おっさんも一緒だ。
「貴様らどうやって! 死んだ筈では!?」
「ジュレとジャムの魔法さ」
ビターが勝ち誇ったように言う。
「処刑場の下で双子ちゃんたちに待機してもらってたの。落ちた私たちを魔法の竜巻でキャッチしてもらえるように」
「な、なんだと!?」
ジュレとジャムの使える風魔法は小さな竜巻を起こすこと。
小さな竜巻といえど、人を持ち上げるくらいの威力はある。
タタンには敵わない小さな竜巻でも、ビターたちを助けるツールになる。
一人一人が小さな力でも、協力すればタタンに太刀打ちできる力になる。
「さぁ、安全なところへ逃げやしょう!」
あとから飛んできたおっさんは長老を介抱しながらちゃっかり自分も安全な場所へ避難する。腹が立つがどうせ戦力にならないので、エルフたちの介抱は彼にまかせよう。
「ふっふっふ」
タタンは笑った。
「だからなんだと言うのだ! 私には翼がある。飛べない貴様らがどうやって私を倒すというのだ!?」
「ああ!! たしかに空中じゃ拳は届かねー!」
勝ち誇っていた表情が焦りの顔に一変。完全に盲点だった。
「やんきー!」
ジュレとジャムが下から飛んできて着地する。
「これつかえ!」
双子たちは二人で手をあわせると、小さな竜巻を二つつくり、それを合体させた。
すると、ひとつの中くらいの竜巻が出来上がる。
「これにのれ」
「たつまきのれば、そらとべる」
二人は竜巻を指さしビターに言う。
「えぇ!? これに乗って戦えっていうのか!!」
うむ、としたり顔で頷くジュレとジャム。
「戦えるのか!? てか乗れるのか!?
途中で落ちたりしないか」
ビターは不安の表情。
「さーふぃんとおなじようりょう」
「きぶんはなみのり?」
「娯楽じゃねェんだよ!! 決戦だぞ、死闘!」
「やんきーは」
「うんどうしんけいもいい」
サムズアップされてしまった。
「くそッ! やるしかねェーッ!!」
ビターは地面にとどまる竜巻に足を乗せた。
足を乗せられた竜巻はグラグラと揺れ、少し安定したかと思うとその場でいっきに地上十メートルくらいまで浮上した。
「うおぉ! たけーッ!」
メルトたちの頭が小さく見える。
ここから落ちたら誤って落ちたらひとたまりもない。
「足もとがグラグラ揺れる」
右に重心を置いても左に重心を置いても片方にかたよってしまう。
真ん中で立てるように両方の足に同じ力が入るようにバランスをとる。
昔、曲芸で軽業師が乗っていた一輪車という乗り物を思いだす。たぶん要領はそれだ。
「よしっ。覚悟しろタタンッ!」
ビターは空中にいるタタンをめがけて飛んでいく。
風を切る速度は早く、頬にあたる空気が痛かった。
「ムム、妙な小道具を手に入れおって!!」
驚くタタンの顔面にパンチをお見舞いする。
タタンは空中で吹っ飛ばされる。
不意討ちではない。正当防衛だ。
「まだまだァ!!」
吹っ飛んだタタンを追いかけ、更にタタンの腹に拳を何投もする。
「オラオラオラオラーッ!!」
「グハァッ!」
タタンの口から胃液みたいな汁が出る。
最後に一番力を入れてパンチを腹の中に刺した。
ドォン、低い重低音が響き、タタンは地上へ叩きつけられた。
地面に砂埃がもくもくと舞う。
「やった!」
「ちょっと卑怯じゃありませんでした?」
「やんきーすごい!」
「かっくいい」
喜ぶメルトたち。
ビターも空から地上に降りようとしたその時、
「危ねェッ!!」
土埃の中から蠢く影が見えた。
立ち上がったタタンだった。
「見くびるなよ、小童が」
タタンはやられたどころか傷一つついていなかった。
「嘘だろ!? あんなにダメージを負わせたと思ったのに」
「私が貴様らのような軟弱な人間に負ける筈がないだろう。私は偉大なる魔女様の僕ッ!」
タタンは思い切り息を吸い込む。
開いた大きな口の前に風が集まってくる。
風は次第に大きくなり、巨大な竜巻になった。
「あれはっ」
「“かみかぜ”!」
ジュレとジャムが叫ぶ。
「なんですって!?」
「三年前の戦いを終わらせたアレですか!?」
「いかん! メルト、みんな逃げろーッ!!」
ビターが叫ぶ頃には神風は放たれていた。
巨大な竜巻がメルトたちを襲う。
「メルトーッ!!」
ビターが叫ぶ。
ダメだ。俺じゃ間に合わない。
誰か、頼む。助けてくれ!
「あむん」
間抜けな声が聞こえた。
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