第47話:情熱はまるめてこねて17
「お前らよくも置いてやがったな」
翌朝。
その場で置き去りにされたおかげでうるち親子にだんご作りについて一晩中しごかれたビターは目を危なくギラつかせながらメルトとフィナンシェに恨み言を吐いた。
「今後のうるち宅のだんごの方向性とか、関係ないのに俺交えて夜通しだぞ……」
「私たちは夜通しスイーツの話して楽しかった~」
けろっと平気な顔で語るメルト。俺のガン飛ばし(眠たげ)に怯まないとは。成長してやがる。
「姫君は今日も上生菓子コンテストの審査員をやるそうですよ。心から和菓子を愛してらっしゃるそうで。メルト様とお二人とても楽しそうでした」
フィナンシェもほくほく楽しそうに土産話をしてきた。
「まさか大会の度審査に参加してるんじゃないだろうなあの姫様」
「黒蜜っちゃんが褒めてたわよ。なかなか面白い髪型だったって」
「髪の方かよ!」
「ほらあんたにもお土産の甘納豆」
「ヤンキーは大和撫子が大好き!」
「知らないわよ!」
「あ、いたいた」
三人で話していると家からうるちが出てきた。
「ビター皆見て見て! おいらの新作!」
気味の悪いだんごを見せてくる。
「んだこれ?」
白い餅部分の上にリーゼントに見立てたなが~い餡子。四つ並ぶだんごの粒には一つ一つ同じ模様がついている。
「なんだこの気味悪い模様は……顔?」
「ビターの顔だよ」
よく見ると自分の顔だった。
「焼き印で焦げ目をつけて再現してみたんだ」
「俺かよ」
まるいだんごにはビターの顔が四つ貼り付いていた。こっち見るな俺。
「俺の焼き印とか一生使わねーだろ」
「ね。おいらすごく後悔してる」
「肯定するのか……」
しかも似てるのが余計腹立つ。
串に刺さってる自分の顔を見てビターは呟いた。
「ねえ食べたーい。四分割しよ。シェアしよシェア」
メルトがクローンビターを一粒ずつばらし(もはやリーゼントでなく刈上げ)皆に分け与える。
味は普通に美味かった。
「親父がみたらしの他にも新しいだんごも販売してみてもいいって言ってくれたからさ、新メニューを考えてるんだ」
うきうきと話すうるち。
大会後大将と話し合いをして、これからは伝統のみたらしだんごとうるち考案の新しいだんごとどちらも販売するように決まり、うるちは大会前以上に張り切ってる。
「アゲアゲだんごは大会で好評だったから皆喜ぶだろうってさっそく明日から販売するんだ」
「スゴいじゃん。やるわね」
「おめでとうございます」
「ありがとうえへへー」
「……俺の半々だんごもいい線いってると思ったんだけどな」
「まーだ言ってる」
「だってよぉ」
ぽむ、と前足が肩に置かれる。
「悔しい気持ちは分かりますが次ですよ次。ヤンキーは過ぎ去る過去を追わないものです」
フィナンシェが言った。
「そうそれそれ。ヤンキーは歩みを止めたら死ぬのよ。お動き」
「お前ら、最近ヤンキーの定義めちゃくちゃだろ」
メルトとフィナンシェに挟まれだんごを頬張る。
「そういえばあのよく食べるアイツもうこの町にいなかったな」
「あいつ?」
「ほら、俺たちがだんご屋巡りしてた時に会った人形みたいな」
「ああ陶器の王子様ね」
「なんだその呼び名」
「白い肌とか儚い感じとかピッタリでしょ。目の保養に大会でもう一度見たかったのに~」
「外見の良し悪しはともかく、あいつの言葉からヒント得たんだよな。両方欲張る的な言葉」
「私も言ってたわよ」
「はいはいメルトも言ってたね」
「つまり私と陶器の王子様のハイブリッドってことね!」
「落選したけどな」
頭を噛みつかれた。
「あの方は大会が始まる前に帰られたのでは。お土産も多く抱えてましたし」
「はひかひ」フィナンシェが言うとうるちが咀嚼しただんごを呑み込み言う。
「あんなにたくさん買う人見たことないって各店の人たちも驚いてたよ! よっぽど食いしん坊なんだね」
「「「いや、一人で食べないと思う」」」
「……おめーらいつまでもだべってんじゃねぇよ」
「大将!」
「父ちゃん!」
「ほら地図。ここらの地形の詳細書いといてやった。遠くに行くほど適当だから自分たちで確かめてこい」
「ありがとう大将!」
地図を受け取りさっそくみたらしの園近辺に目を通す。
「ここから近くにある……なんだ? 砂漠?」
「これは《キャーメル砂漠》だな」
「「キャーメル砂漠?」」
聞いたことない新たな地名に首を傾げる。
「キャーメル砂漠は名前の語感通り、キャラメルが採れるのが由来の砂漠だ」
「大将殿。ご質問よろしいでしょうか」
「なんだロバ小僧」
フィナンシェが前足で挙手した後、地図にある砂漠中央を指す。
「この、砂漠の真ん中にある、家の印はなんですか?」
「【キャーメル村】だよ。砂漠の中にあるオアシスで旅人はそこで休憩をとる。特産品は勿論キャーメル砂漠で採れるキャラメルだ」
大将横文字使えたんだななど野暮な考えを巡らせていると、横のメルトが「あっ!」と叫ぶ。
「なんだよ」
「ここ! 見て!」
キャーメル村付近に三角形で描かれたマークがある。
「三角のなんか尖ったのがある!!」
「そりゃ《ピラミッド》だ。何前年も前からある謎の多い建物らしい」
「ピラミッド!? なんか不思議なネーミング!」
「謎の多い……ほう、ミステリー。興味深いですな」
「まさに迷宮・ザ・ラビリンスね!」
「未知のスイーツが隠れてそうですね。バイオレンスな香りもします」
「……キャラメル名産っつってんだろーが」
あとお前ら何気に大将と横文字競ってんじゃねーよ。
「まあ俺じゃろくに知らねぇから、キャーメル村のことなら和菓子通りの一番隅の家の主人に聞いてみな。ご夫婦でキャーメル村に新婚旅行に行ったそうだから」
「サンキューそうしてみるわ」
「『百聞は一見に如かず』って言葉がある。何事も自分で経験しろってこった」
「肝に銘じるぜ」
ビターたちを見て、うるちは寂しそうな表情を浮かべた。
「ああ、本当にビターたち行っちゃうんだね。寂しくなるなぁ」
つぶらな黒い瞳を潤ませる彼の背中をビターは力強く頬笑む。
「最高のスイーツを探すのが俺たちの旅の目的だからな。お前もしっかり頑張れよ」
バシッと丸まる背中にエールを贈る。
「度肝抜くような品作ってまた俺たちを驚かせてみやがれ」
「ビター……うん! おいら頑張る。『最高のスイーツはみたらしの園にあったのかーッ!!』って唸らせるもの作ってみせるから待っててよ!」
「おう!」
「その言葉覚えてるわよ!」
「応援しています」
三人でうるちとハイタッチを交わした。
「大将、お世話になりました」
「おうまたな」
「うるちと仲良くするのよ~」
「わ、わかっとるわ。はよ行けはよ」
「お二人方もお元気で」
「皆も元気でね~!」
ビターたちは手を振りうるちの家を出た。
***
和菓子通りのだんご屋の主人と奥さんにキャーメル村について話を聞きにいくと、夫婦はにこにこと柔らかい笑顔で教えてくれた。
「キャーメル村ねぇ。こないだ新婚旅行で行ったんだけどありゃよかったよ」
ご丁寧に客席の長椅子に茶まで出されてしまった。
最初にここを訪れた時もお茶出してもらったっけ。
「店の招待券で貰って夫婦二人で遅めの新婚旅行に行ってきたんだよ。キャラメルがわんさか採れるみたいで、あそこのキャラメル菓子はハイカラで美味しかったなあ」
「キャラメル作り体験なんてものもあるのよー。それと村の近くにあるピラミッドもツアーで見学できるの。夜の炎に照らされたピラミッドは神秘的だったわぁ」
「土産店も多いし旅行にはもってこいだな」
「ええ超おすすめ!」
ご夫婦の話を聞いてメルトは瞳をキラキラと輝かせた。
「いいなキャラメルスイーツ!
こってりした洋菓子食べたかったのよ。だんごとか飽き飽きしてたし」
「テメェェェだんごに飽きてんじゃねェェェ!!」
失礼だろうが!
ご相伴に預かっただんごを食いながら平然と無礼をかますメルトにだんご屋の夫婦は、
「いいのいいの~」
「たんと食べておいで」
朗らかに笑った。
なんて懐の深い人たちなんだ……!
熱くなる目頭を押さえ震えるビターをどかーんとはね除け、だんごを平らげたメルトは高らかに宣言するように叫ぶ。
「よーし! いざ【キャーメル村】へ!! 美味しいスイーツに未知のピラミッド。どっちもたんまり満喫してやるわ! ゴーゴー!」
「おいメルト! 初っぱなからとばすとバテるぞ! お前ただでさえ燃費悪いんだから!」
「追いかけましょう」
「ゴーゴーキャーメル!」
すっかりキャラメルモードに入ったメルトを追いかけビターたちはみたらしの園を出たのだった。
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