第11話:新たな仲間を添えて
午後の三時。誰もが心をまったりさせる魅惑の時間。
おやつタイムだ。
ノワールの町にある宿屋『ショコラの夢亭』にて、メルトはテーブルに置かれた品を見てため息を吐いた。
「またフォンダンショコラ……」
テーブルに置かれたのはチョコレート成分たっぷりのフォンダンショコラ。ここ最近のおやつは全てこれが占めていた。
「あんた、アイツに誉められたからって調子にのってるでしょ!?」
「ギクリ」
隣でコーヒーを啜るビターの動きが止まる。
アイツとは金髪少年のことである。
以前フォンダンショコラの作り方云々で言い合いをした後、奇妙な友情が芽生えてしまい(少年が一方的に)アニキと尊敬されるようになってしまった。
これまで誉められたり尊敬されたりすることのない環境で育ったビターにとっては実にむず痒く、しかし心地よいものであった。
調子に乗ってビターはあれから何度もフォンダンショコラを試作し、メルトのおやつに出しては感想を貰いまた試作。その繰り返しをしていた。
そして本日「飽きた」と感想を貰ってしまった。
そもそもビターの作るお菓子は少ない。今までもボーロとクッキーという焼き菓子を交互に献上することによってメルトの飽きを誤魔化してきたのだ。
そのメルトが初めて「飽きた」と言ったのだ。
これは由々しき問題である。
「さすがにレパートリー増やした方がいいか……」
「そうね」
むしゃむしゃとフォンダンショコラを頬張るメルト。
こいつ、文句は言いつつ全部平らげてくれるんだよな。
ビターとメルトはお菓子のレパートリーを増やすためにノワールの町にある図書館へ行った。
図書館は小ぢんまりとしていて結構なおんぼろ具合だった。
吸った空気からはふんわりチョコレートのような匂いがするが、これはノワールの町だからというわけではなく図書館特有の古びた書物からのものだろう。
「しかしボロいな……」
木で出来た床もギシギシと歩く度に悲鳴をあげる。油断して力を入れすぎたりしたら足が木造床を突き抜けるかもしれない。
「本に載っているのも伝統あるチョコレート菓子ばっかりね」
メルトなりに気を遣って『伝統』と言っているが、要は古臭いチョコ菓子のレシピしかないということだった。ノワールはチョコレートが特産品の町、図書館の書物はチョコレートに関する知識や歴史、伝統のレシピに情報量が偏っていた。
「チョコレートの顔はもう見たくない……」
「チョコのどこの部分が顔なんだよ」
「あの溝の半分から上が顔」
「……他の図書館でも探すか」
そうなると町を出るしかない。
しかしビターたちは他に何処に図書館があるのか全然分からない。
うーん……と二人して唸っていると、
「おや、アニキにメルト姉さんじゃないですか!」
ひゃああチョコレートの顔だ! メルトが悲鳴をあげた先には前日フォンダンショコラの件で一悶着起こした金髪少年が立っていた。
「珍しいな。ナンパ以外に少年が勉強とは」
「失礼な! 僕は元々勤勉ですよ」
モテるためには知識がマストなんで! 金髪少年はウインクをキメながら言う。こいつのこういうノリにはもう慣れた。
「それはそうとアニキたちは何故ここへ?」
金髪少年が問いかけ、二人は答える。
「ああ、レパートリーを増やしに色んなレシピを模索しようと思って」
「そしたらここ、チョコレート菓子のレシピしかないじゃない? もっと他のレシピが載ってる図書館はないかって二人で悩んでるのよ」
「ややっ。あんなにフォンダンショコラを完璧に作れるアニキが更に他のスイーツまでも極めようと!? 流石ですアニキ」
「あーはいはい」
キラキラと効果音がしてきそうな金髪少年の曇りなき眼から視線をそらしてビターが返事する。こいつのテンションに合わせていると、こう、なんか疲れる感じがする。
「あんた何処か図書館の場所知ってない?」
メルトが金髪少年に聞く。
「図書館ですか」
「知ってる場所があれば教えてくれ」
この少年が知ってるとは思えないが念には念をだ。
「あぁ、それなら」
「!? 知ってるのか!」
まさかの朗報だった。
「この町を南に行った先に『パルフェール図書館』という大きい図書館がありますよ」
「パルフェール図書館か。サンキュ、行ってみるよ」
ビターがお礼を言うと金髪少年は目を大きく見開いた。
「ええっ。アニキたち町を出るんですか? ずっと居てくれるかと思ったのに……」
「私たちは『最高のスイーツ』を探して旅をしてるの。一つの所にじっとなんてしてられないわ」
誇らしげにメルトが言った。
「作るのは俺なんだが」とビターが呟く。
金髪少年は残念そうに眉を潜めていたが、やがていつもの明るい笑顔に戻り、
「アニキなら絶対最高のスイーツ作れます! 僕は二人を応援してますから」
別れを告げた。
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