第31話:情熱はまるめてこねて2
案内されてやって来たみたらしの園は、これまで見たことのない風景が広がった国だった。
木の種類や建物の造り、道を歩く人々の服装、更には漂ってくる匂いまで違う。
初めて見る景色にメルトはもちろん、ビターとフィナンシェも目を輝かせる。
「ねぇねぇおじちゃん!」
メルトは人懐っこく案内人のおじちゃんに話かける。
「あの建物の上に乗っかってるの何!?」
「瓦さ」
「あのトゲトゲしてる木は!?」
「松さ」
「じゃああのでっかい真っ白の建物は!?」
「お城さ」
「きゃふー! お城っ! 私の住んでたお城とは全然違うのね!! ねぇ、あれは!? それとこれと」
「落ち着けメルト。興奮する気持ちはわかるけど……」
鼻息を荒くして質問攻めするメルトをたしなめるようにビターが言うと、案内してくれるおじちゃんは「いいよいいよ」と笑ってくれる。
「ちなみにあそこに並んでいる建物は和菓子通りといってね、この町ならではのいろんな和菓子が食べられるよ。うちの店もその一つなのさ」
「なに和菓子っ!?」
「あんたも人のこと言えないじゃない」
ビターにツッコミつつメルトも興奮に小さく震えている。フィナンシェはため息を吐いた。
「さ、着いたよ。座って座って」
勧められるままに長い椅子に三人並んで仲良く座る。
しばらくするとおじちゃんは丸い木のトレーを運んできた。トレーの上には緑の飲み物らしきものとスイーツらしきものが乗っかっている。
「緑茶は初めてかい?」
「りょくちゃ? この飲み物か」
「そうさ。暑いから気ぃつけな」
ズズ……と緑茶と呼ばれるものを飲む。
「うぇ」
苦い。えぐみというか渋い。
同じことを感じたのかメルトは舌を出していた。
「この苦味に和菓子が合うのさ」
おじちゃんが皿に乗ったスイーツを指差す。
このスイーツがダンゴだろうか。丸いものが四つ連なって串に刺さっている。
「どうやって食べるんだ?」
素朴な疑問。
「持ち手があるだろう? そこを持って刺さってる丸いやつだけ食うのさ」
おじちゃんに言われた通りの所作でだんごを頬張る。
「! なんだこりゃあ」
口に入れた途端今までに感じたことのない歯ごたえに直面する。
もちもちとした食感。弾力のある歯ごたえ。
初めての感触にビターたちは驚く。
しかし驚いたのは食感だけではない。
「甘くて、しょっぱい……?」
甘いのに、それだけでなくしょっぱさも感じる。スイーツを食べてしょっぱいという経験は今までしたことがなかった。
「ていうか超うめぇ!」
「なにこれなにこれ! どうなってるの!?」
もちもちと咀嚼しながらだんごを味わう。
おじちゃんは得意気に鼻をならす。
「これが“みたらし”特有の味だね」
『みたらし?』
三人の声がハモる。
「このだんごの種類さ。だんごにはいろんな種類の味があってね、他にもあんこ、きなこ、生地によもぎという葉を使ったよもぎってのがあるんだ」
「ふむ。ダンゴの味や生地に使っている素材によって名称が変わるということですね」
「賢いねぇロバちゃん。なかでもこのみたらしの園で一番の名物なのが、今あんたらが食べたみたらしだんごさ」
「へぇ、そうなのか」
「といっても、これはうちのだんごだから、大将には敵わないけどね」
「大将?」
「この町の正式行事『秋のお月見だんご大会』に何年も連続で優勝してる凄いヤツがいるのさ。そいつのあだ名」
「へぇ~大会なんてあるんだ。楽しそう!」
「秋のお月見にちなんで特産品のだんごを作ってお城のお姫様に献上するんだ。この町のお姫様は大のだんご好きでなぁ、“月よりだんご”なんて言って大会の審査員も兼ねているんだよ」
「なんかどっかの姫に似てるな」
「どうゆう意味よ」
隣の姫が容赦なく脇腹をつねってきた。
「ちょうど近くに大会がある。兄ちゃんたちも参加してったらどうだい?」
「言われなくとも」
「参加してやるわよ~っ」
ビターとメルトは串に刺さっただんごの最後の一個を口に放りこみ立ち上がった。
「そうときたらその大将って人のダンゴも食ってみたいぜ!」
「その人はどこにいるの!?」
「あーそれならこの通りの一番端の……」
「サンキュー。さっそく行ってみるわ」
「ごちそうさま! 美味しかったわ」
場所を聞いたビターとメルトはおじちゃんの言葉を最後まで聞かずに大将がいるというお店まで煙巻く勢いで走っていってしまった。
「……」
「……」
二人が去ってからも優雅に緑茶を啜るフィナンシェ。取り残された二人はしばらく無言でその場を過ごす。
「……最後まで話は聞かなくちゃダメですよね」
フィナンシェが言うとおじちゃんは「はぁ~」とため息を吐きながらフィナンシェの隣に座り込む。
「ロバちゃんは本当に賢いねぇ」
「どうも」
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