第32話:情熱はまるめてこねて3

「大将! たのもーっ!!」

「だんごの作り方教えてくれェ!」

 通りの一番端っこにある古びた造りの家、大将がいるという家へビターとメルトが乗り込むと、家の中にいた中年くらいの男がしかめっ面でビターたちを見た。

「なんだオメェら」

「おっさん大将って呼ばれてる人?」

「質問を質問で返すんでねぇよ……まぁそうだが」

「俺はビター、んでこの紅いのがメルト。俺たち“秋のお月見だんご大会”ってやつに出て優勝目指してェんだ。優勝連続で大将って呼ばれてるアンタに是非ご教授願いたい」

「正確にはビターが作って私が食べるだけなんだけどね。美味しいだんごの作り方、教えてくださーい!」

「ンなもん教えねーよ。出てけ」

「「え」」


 ぽーい、と家から放り出された。

 即答で断られてしまった。


 放り出された道端でぽかんとしばらく座り込む二人。


 はっとメルトが意識を取り戻す。

「なんで!? ちょっと頼み方が無礼だった気もするけど、あんなつまみ出すように断らなくてもいいじゃない!!」

「さすが連続優勝者。やっぱ秘伝の技とかとられないように自衛の策をしているんだな」

 一人頷くビター。悔しさに道端でじたばたと暴れるメルト。

 道行く人たちが二人を見て見ぬふりをして通りすぎていく。


「いや、単にあのお方は超のつくほどの頑固者らしいですよ」

 遅れてフィナンシェがやって来てそう言った。

「誰がそんなことを言っていた!」

「先程ご馳走になったご主人がですよ。二人とも最後まで話を聞かないから」

 ああ、そういえば話の最中で大将の家へ向かってしまった。すまん、おっちゃん。

「いや、教えてもらうなら優勝経験のある実力者がいいと善を急いでだな……」

「結局断られちゃったけどね」

「はあ~ショック」


 スイーツのことになるとつい熱くなってしまう。今すぐにでもだんごをこねてしまいたいテンションで、教えてもらう気満々だったので、あんなにあっさりと断られるとは思わなかった。

 いきなり出鼻を挫かれてしまい柄にもなく落ち込む。

「まあまあ、ここがダメなら全部ダメってわけじゃないんだから、他に教えてくれる人を探しましょう」

 メルトが慰めるようにビターのリーゼントを撫でる。すぽすぽと髪の隙間に指を埋められる。

「やめい」

 そうだ。こんな三角座りでしょげている場合ではない。

「そうだな。俺たちのだんごの師匠はまだいるはず!」

「片っ端からお店の人に頼んでみましょう!」



「ひぃっ! うちは極道の人に教えるのはちょっと……」

「あんたみたいな柄の悪い人と関わったら店の評判が落ちる」

「お願いです。だんご一年分授けるので命だけはお助けください」


 片っ端から断られてしまった。主にビターの容姿問題で。


「最近見慣れてきたけど、あんたの顔って相当凶悪なのね……」

「……」

 ビターは人通りの少ない、大きな池のある庭園にある橋の上にいた。

 広々とした池の中を泳ぐ鯉を見つめる。

 池にはいろいろな模様の鯉が泳いでおり、周りには松が植えられ、まったりと雅な空間。

 そこに似合わない凶悪な顔をしたヤンキー(落ち込み状態)。


 ぱしゃん、と跳ねた鯉が七匹目になったところでメルトが言った。

「ああもう! いつまで落ち込んでんのよ! まだ教えてくれる人がゼロって決まったわけでもないでしょ! 次いこっ次」

「次ってもう店はかたっぱしから回っただろうが……」

「店にいなくてもそこらへんに教えてくれる人がいるかもしれないじゃない!」


「そうそう。おいらのように」


「「……」」

 突然割り込んできた声にビターとメルトは黙り込む。

 二人が同時に声のした方へ首をひねると、そこにはちょん髷の十代半ばくらいの少年が腕を組みうんうん、とうなずいていた。

「「……えぇと、誰?」」

「おいらはウルチ。聞こえてきたんだけど、兄ちゃんたちだんご作りを教えてくれる人を探してるんだろ? それならおいらが教えてやるよ!」

「え、あなただんごが作れるの?」

「おうよ! おいらが未だに味わったことのない刺激的なだんごの作り方を教えてやるよ!」

「だんごに刺激的って言葉はどうなんだ……」

 ビターが弱々しくもツッコミを入れる。

 突然現れた少年ウルチのはりきり具合にビターたちはポカンと口を半開きにしたままだ。


「まずはおいらの作っただんごを食べてみてよ。全てはそこから始まるのさ」

 ウルチはどこから出したのか、パックのように大きな葉でくるんだだんごを差し出した。

「なんか色がカラフルだな」

 葉の中には串刺しのだんごが三本。赤、黄、青一色のものが一本ずつある。

「なんでこんな不自然な色ばっか」

 どれも毒々しい原色で食欲をそそらない。

「私赤色~」

「じゃあ自分は黄色を」

「あ、お前らズルいぞ!」

 先手でメルトとフィナンシェに赤と黄色のだんごをとられてしまった。

「味は可もなく不可もなくね」

「見た目に反して味は無難ですね」

 もしゃもしゃと先に食べた二人はそれぞれもらっておいて随分な感想を言う。

「まったく……」

 選ぶことなくビターは消去法で残された青色のだんごを仕方なくとり、口に放り込む。


「ぶふぁおッ」


 激しく噴き出した。

 だんごは異常に辛く、ツーンとする痛みが鼻の奥を駆け抜ける。

「なんだこりゃあ!?」

「ロシアンだんごさ。どれか一つに激辛わさびが入っている」

「わさびって何?」

「東の地方で多用されている薬味ですね。しかしスイーツに使うとは聞いたことがないです」

 ウルチは得意気にふふん、と鼻をならす。

「お菓子には斬新さが一番なんだい。常に新しいものを取り入れ革命を起こす。ゲームもできるお菓子!どうだい!」

「ス……」

「ん?」

「スイーツを遊びに使うんじゃねエェェッ!!」

「うきぁああ!」

 ぐりぐりぐりとウルチの頭を拳で挟み右へ左へと捻る。

「あ、ビターが元気になった」

「ショック療法みたいですね」

 メルトとフィナンシェが隣で安心したように小さく笑っている。


 ビターはスイーツで落ち込み、スイーツで立ち直る男なのだ。


「スイーツをギャンブル要素のある遊びアイテムにしたこと、許さん」

「痛い痛い! ミシって言った!」

「しかもなんで俺にわさびが当たるんだよオオォォォ!!」

「それはおいらのせいじゃない~!」

「八つ当たりだぁぁ!!」ウルチの絶叫が雅な庭園に響き渡った。

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