第3話:運命はふるいにかけられる3
メルトの部屋を追い出されてから数分後、ビターは困っていた。
「俺、城うろつけないじゃん」
ビターはあくまでお姫様のお目付け役に抜擢されただけ。それをお役ご免になったらただの容疑者だ。
事実を王室に知られたら絞首刑になってもおかしくない。かといってゴロツキがメイドや執事の手伝いを率先して手伝うなんて事も出来ない。
「どうしたもんか……」
ぐうぅと腹が鳴る。そういえば最近ろくなものを食べてなかった。
スラムのように貧しい地域に生まれたビターは幼くして両親や兄弟を流行り病で亡くし、独りだけ生き残ってしまった。
みんなの分まで生きる、そう生に執着して意地汚く生きてきた。
お金がないから食べ物を盗み、食い逃げもし、それも叶わない日は路地裏に捨ててあるゴミから食べられる部分を食べた。
なのにあの姫はなんだ。
あの部屋に散らばった残骸は全て立派な食べ物だ。
気に食わない味だから食べないのか? 捨てるのか?
怒りが溢れて思わず彼女を叱責してしまったが、
「なら俺にくれよって言えばよかった~!」
後の祭り。
今さら戻って「ください」なんて恥知らずなこと出来ない。人としてというより、男として。
廊下でうずくまること約三十分。
ふわっと甘い香りが鼻をよぎった。
振り替えると眼前にホカホカのクッキー。
「あの、これ食べます?」
いつのまにかビターの隣にパティシエの服を着た小柄な少女が彼と同じく三角座りで廊下に佇んでいた。
「おお、サンキュー」
「それ、姫様が食べたことにしといてくれません?
感想は“不味かった” でいいので」
パティシエの少女は泣きそうな表情を両手で隠しながらビターに懺悔する。
「ごめんなさい! 何回も自分の作ったお菓子が美味しくないって言われるの嫌なんです! 今日も渾身の出来ではないし~」
「落ち着け! もしかしてお前があの姫にお菓子を届けているのか?」
「そうです~。市販の物でも満足してもらえないので作るしかないと、依頼を受けて毎日作ってるんですが全然美味しくないと姫様に言われてぇ」
少女のクッキーはとても美味しかった。こんなに旨いものにそうそう出会えないと言っても良いほどのクオリティだ。
これで満足出来ないなら姫は城を出るしかないな。
「……ん? そうか、それだ!」
「どうしたんです?」
「いいこと思いついたんだよ! 厨房貸してくれ、とその前に自己紹介か。俺はビター、今日から姫のお目付け役になったが今解雇された無職だ。よろしくな」
少女ははあ、と頷く。
「わたしはモッタレラといいます~、よろしく」
……ん? と顔をみるみる内に真っ青にしていく。
「もしかして私はヤバイ人に餌付けしました?」
「大丈夫だ。ただスイーツを厨房で作りたいだけの男だ」
「男がスイーツって言うなんてヤバイですぅ!」
そこかよッ!! ていうか余計なお世話だ!
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