第13話:新たな仲間を添えて3

「なあ、元気出せって」

「……」

「ほらメルト! この本旨そうなスイーツがいっぱい載ってるぞ」

「……」

「いい加減にしろよ! せっかく図書館に来たのに何も読まずにお前はよォ!!」

「はひゅ~……」

 ダメだこりゃ。


 メルトとビターはパルフェール図書館に到着するものの、偽ユニコーンの一件でメルトのテンションはロー状態を保っていた。


 ちなみに飼われて早々申し訳ないが、ロバは図書館の隣の原っぱで待機させている。

 別に動物が入ってはいけないと注意書きもないが、文字の読めない動物をわざわざ館内に入れる理由もない。


 メルトは分かりやすく拗ねている。

 ユニコーンがロバだったことがショックだったのは分かるが、こちらはなけなしの金銭を払って生き物を買っているのだ。自分たちに飼われたロバだってユニコーンじゃないから捨てるなんてことはできない。それにロバ側からしても気の毒すぎる。


 パルフェール図書館はお洒落な名前とは裏腹に建物はひどく無機質な造りだ。

 図書館は全て石で構築されており、窓や入り口のドアだけが石からくり貫かれている。

 長方形の石版がそのまま芝生の上に建っているような、こんにゃくがドーンと草っぱらに寝ているような、見た目は簡素な造りだった。

が、中に入ってびっくり。

 こんにゃく紛いの建物内は全速力で走っても壁にぶつかる恐れがないくらい広く天井も高い。

 しかし広く確保された通路の脇にはところ狭しと本棚があり、中身の本もギッシリと詰まっている。

 それがほとんどお菓子についての本というのだからビターは心が踊った。

「どこから攻めてやろうか」そう舌舐めずりしたところでこのメルトのやる気の無さである。

 ネガティブは二秒で伝染するというがビターもそろそろ限界だった。

「あーもう、お前はそこで落ち込んでろ。俺はこの辺で資料あさってるから」

 何かあったら呼べよと一応心配の声をかけておくがメルトは無言。手のひらを上下に扇ぐ。あっちいけってか。


 ビターは本棚のコーナー名をそれぞれ見ていく。

 同じお菓子の書籍でも、分野というものが細かく分類されているからだ。


 ビターが最初に見たコーナーは『世界のスイーツ』だ。

 これから旅をする際の目的地になるかもしれない。

 ビターは色とりどりに並ぶ本の中から一冊を抜き取る。


「『和菓子の都・みたらしの園』『常夏の楽園・フルーツアイランド』『氷菓の国・ソルベット』……いろんな国があるな」


 本にはそれぞれの国の特色と名産品が掲載されており、とても興味をひく。

「お、デコレート王国も載ってる」

 デコレート城の写真を見ると、ついこないだまで自分たちがいた場所なんだなと不思議と懐かしい気持ちになる。自分は捕まって連れてこられたんだけど。思い出は思い出だ。


「ん? よく見たらこの島……」


 目に留まったのは『常夏の楽園・フルーツアイランド』。

 その島と周辺が記された地図を見ると、フルーツアイランドの上……北側『パルフェール図書館』という文字が見えたのだ。


「もしかして、すぐ近く?」


 ひょっとすると次の目的地になるかもしれない。


 ビターはメルトに知らせようと本棚を離れようとしたが、ある考えが浮かんだ。

「今伝えるとすぐ出発するって言いそうだな……」

 伝えなくとも図書館にいるメルトはだらーっとしてるだけだし退屈極まりない状態だろう。

 せっかく面白い本が目の前にたくさんあるというのに、これだけで去るのは勿体ない。


「もう少し読んでこう」


 探求心が勝ち、ビターは次の本棚へ向かった。


 ビターが次に見た本棚は『スイーツの歴史』。

 分厚い本の中から比較的理解しやすそうな大きめの文字のものを取り読む。

「スイーツの元祖について……ふむふむ」

 そこにはお菓子の起源ともいえる歴史が記されていた。


『かつてこの世界には伝説のパティシエが存在した。伝説のパティシエとは、どの分野のスイーツも最高の品質且つ極上の味を再現できるお菓子の体現者のことをいう。

選ばれしパティシエはスイーツの王都・デコレート王国の王宮パティシエとなり王室に仕え、最高のスイーツを王宮だけでなく国民にも振る舞った』


「へえ、そんな凄い奴がデコレート王国にいたのか」

 自分の生まれた国の知らない歴史についてビターはほう、と本に相槌をうつ。


 本には続きがあった。


『伝説のパティシエには名誉として金色のスプーンが授与される。金色のスプーンとは食べるものに困らないという飽食の象徴である。授けられた者は伝説のパティシエとし、スイーツの加護を受ける』


「ほうほう」


『しかし、伝説のパティシエはある時忽然と姿を消してしまった。何故王国を去ってしまったのか、現在何処にいるのかは定かではない』


「え!?」

 ビターは思わず声を出してしまう。

 パティシエはどこかへ消えてしまった。

 一体パティシエに何があったというのだろう?

 読み進めていくと次の文が目を引いた。


『一説によると《魔女》の襲撃に関係あるのではないかと推測される』


「魔女……?」


 本はそこで終わっていた。

 魔女については別の本棚を探した方が良さそうだ。



 ところが魔女についての本棚を探したが、それについて記載されたコーナーも書籍も見当たらなかった。

 どうやらここはあくまでお菓子中心に本が集められた図書館。

 間接的な出来事についてはあまり触れられない。つまり専門外。


「ちくしょう、気になるところで終わってモヤモヤする」


 ビターが諦め半分にため息を吐くと、メルトがすごいスピードで走ってこちらへやって来た。

「ビター! 休憩コーナーに素敵な喫茶店があるわよ。お茶にしましょう!!」

「図書館を走るんじゃねェ!!」

 大声で注意すると「図書館ではお静かにィィ!!」と大声で司書さんに怒られてしまった。解せぬ。

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