第29話:懐かしきアメとムチ4

お店の外に出ると、カヌレはメルトたちに頭を下げた。

「では私はここで」

「本当に帰っちゃうの?」

「私としては連れて帰ってもいいんですよ」

「あ、うそ。帰って帰って」

メルトがビターを盾にして後ろへ隠れる。

そんな彼女にカヌレは苦笑すると、ビターに話しかける。

「輩、貴様のことは認めたわけではないが、しばらくメルト様を預けても良いとする」

「……そりゃどーも」

今度はフィナンシェの方を向き頭を下げる。

「ロバ殿もどうかメルト様をよろしく頼みます」

「ええ、頼まれました」

ちょっと待て。なんか俺だけ扱い違わね?

俺に対してだけ上から目線というか。

「解せねェ」


ビターがぶつぶつ言うのをよそに、カヌレはメルトに最後の挨拶をする。

「それでは、良い旅を」

「うん、城の者たちにもよろしくね」

「メルト様もお元気で」

お店の外に出ると、カヌレは別れの言葉をメルトたちに言い去っていった。


お店で後片付けをし、時計塔前の広場で余ったチョコバナナを食べる。

「しっかし濃いキャラだったな、あの教育係」

ビターはイチゴ味のチョコバナナをかじる。これで三本目だ。

「ほんと、心配性なんだから」

「心配してくれる人がいるのはありがたいことですよ」

「ありがたいけど、うざったいっていうか……」

「うるさく言われているうちが花ですよ、メルト様」

メルトとフィナンシェもそれぞれに、チョコバナナを手に持つ。

二人が一本目を食べている間にビターは三本目最後の一口を飲み込む。

「そうだ。俺にはそんな人もういないからな。羨ましいよ」

ビターの言葉にメルトとフィナンシェが黙る。

そして沈黙を打ち破るかのようにメルトがビターの頭を叩いた。

「いてッ」

「アンタには私とフィナンシェがいるでしょ」

「……そうだな」

「しんみりしてんじゃないわよ」


ゴーン、ゴーン……


時計塔の鐘が鳴る。時刻は昼から夕方に変わる。

腹の底に響くような鐘の音をチョコバナナ片手にぼんやりと聞いていると、広場を歩いている主婦らしき人に声をかけられた。

「おや、その手に持っているのは“ダンゴ”かね?」

「いえ、チョコバナナですけど……」

ビターが答えると、主婦は言った。

「いえね、お宅らの持っているのが“みたらしの園”って所のダンゴっていうお菓子そっくりでね。串に丸い餅を刺したお菓子なんだけど。そこでは“和菓子”という独特のお菓子がたくさんあるのさ」

「へぇ、どれも聞いたことねェや」

「この街から更にずーっと東へ行った場所にあるよ。なかなか珍しい文化が定着している国だから行ってみたら面白いかもね」

主婦は豪快に笑うとみたらしの園の情報を残して去っていった。

「みたらしの園、ダンゴ、和菓子……聞いたことない言葉ばっかりだ」

「私たちはまだ世界の一部しか知らないのかもね」

「おっしゃ! 燃えてきたぜッ。“みたらしの園”で“和菓子”マスターしてやろうじゃねェか!!」

「よーし! 最高のスイーツを見つけるため、和菓子食べまくってやるわよ!」

チョコバナナを全て食べ終え、胃の中におさめると、ビターたちは広場を出て、宿屋へ向かう。

明日は早朝に出発だ。


次はどんな出会いがあるのか、楽しみに胸が弾む一向であった。


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