第13話

「どうだ?」

 シャーロックがワットソンの待機しているビルの上に出る。

「動きがない」

 ワットソンが白雪の警護をはじめて12時間近く待ち続けたが、なにも動きが無かった。白雪を観察している人影自体はあるのだが、その人物は動く気配がない。

「もうすぐ学校に行くはずだ。学校に行ったら一旦帰投しよう」

 シャーロックはワットソンの身を案じるというよりも、どのタイミングで襲撃を仕掛けてくるかを判断した結果であった。

「向こうも仕掛けるとしたら今晩だろうな」

 和光たち警察が動いていることを知らせるために、和光に接触していた。警察が動いていることを知れば、白雪の拉致を前倒しせざると踏んでいた。

 刑事が張り込んでいる状況を維持することで、選択肢を狭めていく。シャーロックはシャーロックで白雪を狙う人間のリソースを奪っていく。


「まずは、監視者の素性だな」

 ワットソンから引き継いだ情報を基に、構成員の素性を調べていく。

 監視していた人員は全員異なる私服を着ていたが、極僅かな共通点からおおよその所属を割り出す。

「まずは、研究所系列だな」

 自席のパソコンから紫水真水が所属していた組織の内部情報を引き出す。

「真島研究所か」

 植物の研究をしている研究所であるが、裏では植物の違法改造に手を出していることは確認している。

 改造している植物は裏で脱法ドラッグの材料として裏社会に流れている。

「こっちを捜査4課が調べているのか」

 暴力団の資金源として横流しされていたのを公安なり、1課なりが情報を掴んだのだろう。その情報を4課に流した。どこかしらの暴力団が自白し、そこから紫水真水に行き着いた。0課は0課で調べていたら紫水真水に辿り着いた。その結果4課と0課で合同捜査線を張っているということだろう。

「ずいぶんと面倒な事件になってるな」

 警察が動いているのは、暴力団の資金源封鎖、理外技術の回収。その裏で糸を引いている組織が、理外技術の提供。

 紫水真水に技術提供している目的がわからない。場合によっては、紫水真水が構成員として組織に加入している可能性もなくはない。

「微々たる可能性であっても、その可能性がきっかけで計画が崩れることもある」

 紫水真水が組織の構成員として動いているのであれば、必ず生存させた状態で逮捕しなければならない。

「なんで白雪みおんを狙っているのかも知る必要がありそうだな」

 白雪みおんと顔を合わせた際に当人の髪の毛を採取していた。

「ここにある機材で鑑識する必要があるとはな」

 シャーロックがサヴァン因子の研究を兼ねて投入している設備では、最低限のDNA検査程度しかできない。しかし、その設備だけで十分過ぎる成果が出てしまった。


「こいつは、本当に標的ターゲットにする価値があるのか?」

 言ってしまえば普通。何の特異性もないただの一般人。たまたま標的に選ばれたに過ぎないようだ。

 紫水みこの知り合いで、普通の一般的な女子高校生だったから、父親である紫水真水が認知していて実験対象に選んだ可能性が一番高いだろう。

「流石に学校みたいな衆人環視のなかで、攫うようなことはしないだろう。紫水が警察の監視下にあるから仕掛けるとしたら放課後の一人になったタイミングか、あるいは夜陰に紛れて住居侵入か」

 どちらにしても、プライベートの隙を突くように攫うだろうとシャーロックは読んでいた。

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