第15話

 白雪邸前で待機して、十数分経った。しかしワットソンからの合図がまだ来ない。

 シャーロックはスマホをいじる振りをして、バイクを停車させている理由に見せているが、それも長くはできない。

 ワットソンが見間違えたとは考えられない。焦燥感が募っていく。そのとき

『シャロ! 侵入はいた!』

 ワットソンからの連絡が入り、白雪邸のインターホンを鳴らす。

「はーい」

 インターホン越しに間の抜けた声が聞こえる。

「夜分遅くにすみません。連理探偵事務所です。白雪ゆかりさんは御在宅ですか?」

 事前に調べておいた白雪みおんの母親の名前を出し、本人確認する。

「はい。わたしがそうですけど? 何かありましたか?」

「警察からの要請で本人確認しなければならないので、お忙しいところ申し訳ないですが、ドアを開けてもらえますか?」

 インターホンが切れ、10秒ほどで玄関の扉が開けられる。

「フゥッ」

 体内のサヴァン因子を活性化させ、身体能力の向上をさせる。強化した身体能力で門を跳び超え、前庭を一瞬で走り抜けると、白雪ゆかりが開けた扉の隙間に身体を滑り込ませる。

「な、な、なんなんですか!」

 一瞬で屋内に入り込んだシャーロックに驚いているが、その間にもシャーロックは白雪みおんの部屋に急ぐ。

「ッチィ、遅かったか。ワットそっちは?」

 もうすでに白雪みおんの部屋はもぬけの殻だった。

 窓を割られた形跡はなかったが、鍵の辺りをくり抜きそこから鍵を開け侵入したのだろう。抵抗した形跡がないことから、何らかの方法で昏睡状態にさせられたのだろう。

「こ、これは? どういうこと……、なんですか」

 ゆかりが啞然としている。

「落ち着いて聞いてください。娘さん、白雪みおんさんが攫われました。これからオレたち連理探偵事務所で救出に向かいます」

 ゆかりの目をしっかり見つめ言葉を話す。

「ですから、警察に連絡して連理探偵事務所が動いているとお伝えください」

「……、はい」

 ゆかりの目が虚ろになり、言いなりになるように階下に降り、電話に手を掛け発信し始める。

「あんまり使いたくなかったが、パニックになる前に使っとかないと面倒だからな」

 シャーロックが使ったのは催眠術のひとつ。悪用すれば他人を使って犯罪をすることもできるが、あまり高度な行動をさせることはできない。

 シャーロックはみおんの部屋の窓から身を乗り出し、屋根を伝って玄関の方へと降りる。

 バイクに乗り込むと、スマホのアプリから発信機の動きを確認する。

 誘拐犯は西に向かって車を走らせている。バイクで追いかける分には十分追いつく距離だ。

(追いつけるが、泳がせる。本体を叩くチャンスを逃しはしない)

 シャーロックは同じように追いかけているワットソンを回収するために、一路ワットソンとの合流ポイントへとバイクを走らせる。

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