第12話

「あの娘が白雪みおんです」

 シャーロックが紫水みこと共に住宅街を歩いていたところ、丁度よく護衛対象の少女を発見した。

「ワット、対象発見。正面から歩いてくる少女だ」

『了解。対象の周囲の確認する』

 ワットソンに連絡するとすぐに周囲の走査を始める。数分もすればワットソンの走査も完了するだろう。

「んじゃ、手筈通りに紹介頼むぞ」

「はい」

 紫水経由でシャーロックを紹介する。あくまで紫水の探し物を手伝っている探偵として紹介することで警戒を解いておく。

「あ、みこみこ。どーしたんだ? あ! デートかぁ」

 白雪は紫水のすがたが見えると尻尾を振る犬のように寄ってくる。

「違うわ。部室のカギを無くしちゃったから、探偵の人に手伝ってもらったの」

 白雪が変な勘違いをしているようだが、紫水はすかさず訂正する。

「えーそうなの? やばくない? わたしも手伝う?」

「いや、紫水の探していたカギはさっき見つかった。それで事務所に帰るとき、丁度君を見かけたに過ぎない」

 紫水に事前に借りていたカギを目の前に掲げる。

 ジーッ、と鍵を見つめていたが、興味が失せたように鍵から紫水に目を移す。

「んじゃー、帰るんだね。バイバーイ」

 失せ物探しを自らの意思で手伝おうとする白雪みおんという少女は、友達思いなのかもしれない。白雪は紫水に手を振ってからシャーロックたちの横を通り抜ける。


「紫水も今日は帰った方がいい」

 シャーロックは紫水に帰宅を促す。おおよそ紫水の尾行をしているであろう人物が複数人いることはワットソン経由で確認している。その尾行している人物の中には警視庁の人間、和光のすがたもあった。

「わかりました。探偵の中でもなにかあるんですね」

 紫水はシャーロックの思惑を何となく察して自宅に向けて歩いていく。

 紫水とは逆方向、監視している和光の方に歩いていく。

「和光。何のつもりだ?」

 曲がり角を曲がったところにいる和光に問いかける。

「やはり気づいていたか」

「ほんとに気づかれてたんですね」

 和光の他にもう一人刑事がいた。二人組ツーマンセルで監視しているということは、何かしらの事件の容疑者候補ということになるだろう。

「こいつは?」

「は、はじめまして。捜査0そうさぜろかに転属した花奏洋司かなでようじです。よろしくおねがいします」

 新人刑事はシャーロックに深々とお辞儀をする。

「まあ、そういうことだ。紫水とはどういう関係だ?」

 和光が本題を切り出す。

 捜査0課としては紫水が何らかの事件の鍵を握っているということだろうと、シャーロックは考え和光たちをゆさぶることにする。

「0課の刑事として探偵への情報提供要請か? それとも捜査協力か?」

(さて、どう答えるか)

 和光の出した結論は意外なものだった。

「紫水真水に殺人事件の容疑者として名前が挙がっている。その容疑者が現状行方をくらましている。その結果、親族への接触の可能性を踏んで張り込みが捜査4課と0課の合同で行われている」

 要約すると、紫水みこの父親が殺人事件の容疑者として名前が挙がっていた。その身柄を押さえようとしたところ行方不明で捜査難航しているということだった。

「オレの受けた依頼もその件に関係してそうだな」

 シャーロックの受けた要人護衛という体で受けた紫水からの依頼を、刑事への事件解決の情報提供という形で公開する。

「これは白雪みおんを護衛しとかないとマズイんじゃないんすか」

 新人刑事が焦って走ろうとするのを和光が腕を掴み止める。

「待て。そういうところは直すべきだ。探偵の依頼に警察が首を突っ込むわけにはいかない」

 和光は冷静に状況を判断していた。

「でも、

「白雪は既にこっちでワットが観察護衛ガードにまわってる。余計なことをされるとこっちの信用問題になる」

 花奏は何か言おうとするのを遮るようにシャーロックを先回りして答える。

「そうだ。こっちの事件に集中しろ。シャーロック、一応殺害許可は出しておく。非常時は殺害を許可するが、極力見られないようにしろ」

 花奏を一喝すると、シャーロックたち探偵に殺害許可を出す。

「先輩⁉ どういうことですか」

 花奏が驚いたように声を上げる。

「ああ、こいつらは殺害許可を出せば殺人もする。というか、緊急時限定だがな」

 緊急時に殺害できないと被害が拡大すると、シャーロックが判断した場合にしか殺害はしないが。

「捜査0課が現場張る仕事はそういうものだ。新人の内は和光に付いてしっかり勉強するといい」

 シャーロックはそう言って探偵事務所の方に向かっていった。


「シャーロックの言う通りだ。0課の仕事は理外の犯罪を相手にするから殺害許可を出せる相手が必要になる。あいつらはそういう役目を負ってくれている信頼のおける探偵として、仕事仲間みたいなもんだ」

 和光は呆気カランと言い放ち、紫水の後を追いかける。

 花奏は納得できたような、できないような表情を浮かべつつも和光の後を追いかける。

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