第11話

 シャーロックたちが動く少し前のはなし


 数日前から紫水みこを監視していた。遂に今日、紫水が想定外な行動に出た。連理探偵事務所に入って行く。丁度和光と入れ違いになるかたちで意外な人物にコンタクトがあった。

「これってどういうことなんでしょうね?」

 鑑識班の作った小太刀をワットソンに届けたあと、和光が後輩の刑事、花奏洋司かなでようじと合流後その現場を確認した。

「わからん。紫水みこの父親、紫水真水しすいまみずの捜索かもしれん」

 和光たち捜査0課は紫水真水を捜索していた。

「現状、紫水一家にコンタクトする可能性が一番高いと踏んで張り込んでいたが、その対象が連理探偵事務所に行くとは思わなかったな」

 監視対象の紫水みこが連理探偵事務所に入って行くのを、確認した和光たち刑事2人は連理探偵事務所から出てくるのを待っていた。

「一応、2人もマークしときますか?」

 花奏が提案する。

「いや、あそこの探偵たちはうちの委託先だ。心配するな」

 警視庁捜査0課として理外の事件を相手にしているが、それでも理外の犯罪に対する捜査は彼らが出張らないと難航していた。

 和光は探偵事務所内で監視対象とシャーロックがどのような交渉をしているのかが気になっていた。

「監視していることがバレたら面倒になるな」

「そんなに簡単にバレるものなんですか?」

 花奏はまだ捜査0課に配属されて日が浅い。まだ花奏にはわかっていないだろうが、少なくともシャーロックには確実に監視していることがバレている。探偵事務所の窓越しにシャーロックの目がこちらを見ていた。

「依頼人に対しても警察オレらに対しても、必要最低限の情報しか寄越さない。だから信用に足る探偵として、捜査0課がクライアントとして事件の捜査協力を頼めるんだよ」

 花奏が中心となって事件の対応をすることもいずれはあるだろう。そのときは和光は引退できているか、殉職しているかかわからない。そう考え、捜査0課の主任刑事として花奏の指導に当たっていた。

「じゃあ、オレもあの事務所で働けばそういう事件を一人で対応できるようになれるんですか!」

 花奏の目がキラキラして見えた。

「やめておけ。あいつらは人間離れしたバケモンだぞ?」

 和光も数回事件の犯人を仕留めるさまを見たが、完全にその筋の殺りかただった。

「そんなにすごいんすか」

 花奏が課長として現場を張る頃には、理外の犯罪を主としている組織を壊滅させれることが理想だが、それができるかどうかはシャーロックとワットソンにかかっているようなものだった。

「探偵業はキツイぞ。普通に依頼を受けているだけなら赤字だからな。それを賄えるだけの信頼を勝ち取ってきているのが連理探偵事務所だ」

 嘘ではない。あの事務所はこの比翼市に根差した活動を粛々と行ってきたからこその信頼でもある。

「出てきたぞ。どうやら2人は別行動をするらしい」

 ワットソンが先に出てきたと思ったら視界から一瞬で消えていった。

 シャーロックの方は事務所に鍵を掛けると、紫水みこと共に住宅街の方に歩いて行った。

「俺らも動くぞ」

「はい!」

 シャーロックと紫水みこの後を、シャーロックにはバレているが紫水にだけは絶対に見つからないように慎重に尾行していくことにする。

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