第10話

 探偵事務所の戸を叩いた少女。彼女の名前は紫水みこと名乗っていた。年齢は17歳。高校2年生とのことだ。

「それで、依頼したいことっていうのはこれはうちの管轄でいいのか?」

 連理探偵事務所では、依頼するにあたって具体的になにをするのか、どうしてほしいのかを書いてもらっている。そこに書かれていた内容は要人護衛と書かれていた。

「えっと、これは何ていうか、守って欲しい人がいるんです」

 守って欲しいと言われても、本人の同意が無ければ探偵の仕事として活動することはできない。

「できないわけではない。が、本人の同意が無ければうちとしては動くことが出来ない」

 シャーロックは結論を述べるが、それでも紫水は諦めることなく、自分のカバンから一枚の紙を取り出す。

「これが原因なんです」

 紫水の取り出した紙にシャーロックが目を通す。

「ワット、パス」

 シャーロックが自分の後ろにいるワットソンに紙を渡す。

「ん-? なんじゃこりゃ?」

 珍しくシャーロックがワットソンに向けて渡した紙には、想像を超えるようなものが書かれていた。

『脳に傷害をあたえることで何らかの、能力を発現する可能性がある。その実験対象として白雪みおんを誘拐する』

 期日までは書かれていないが、護衛するには足るような文言が書かれていた。

「今回に関しては、例外的に受けるとしよう。ワットも異論ないな」

 紙の内容を確認したワットソンは迷うことなく頷く。

「この依頼の報酬についてだが、成功次第とさせてもらうが、これの真偽がわからない以上相当な額になることは理解していただきたい」

 依頼交渉テーブルの上に推定の報酬額を書いた紙を出す。

「報奨金はとりあえず書いてある通り10万円。それから場合によって追加で報酬を頂くことになるがそれでいいんだな?」

 紫水に念を押すように確認する。

 紫水は真っ直ぐシャーロックを見て頷く。

「わかった。今日はその白雪みおんに会うとしよう。ワット、調査の用意だ」

 紫水との細かい依頼内容を詰めている間に、ワットソンに人物調査の用意をさせる。諜報任務をするのはワットソンの仕事やくわりだ。それに関する装備の管理はワットソン自身でやっている。

 今回の依頼は、ワットソンが主に出張ることになるだろうなと考えながら、紫水から詳しいことを聞き出す。




 依頼の護衛対象である白雪みおんは、同じ高校に通う幼馴染ということだ。必要以上に詮索するようなことはしないが、最低限住んでいる場所と外見を見ておかなければ護衛することは難しい。

「わっと、そっちはどうだ?」

 インカム越しにワットソンとの機材確認を兼ねて、ワットソンの状況もついでに確認する。

『こっちは上々だな。そっちを監視てる奴等が何人かいるな』

 紫水のことを観察しているということだろう。

「他にはあるか?」

 紫水を観察している人物がいることは、依頼が来た時点で何となく察していた。しかし、向こうの人間が敵性を持っているかどうかを判断できなければ、茜音を拉致しようとする敵として処理することはできない。

『他はないな。一応監視範囲を広げとくか?』

「いや、いい」

 護衛対象だけを見れば大丈夫だろうとシャーロックは考えていた。紫水を監視している人物の中に見知った顔があった。

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