第9話
あの事件から一週間。連理探偵事務所の探偵たちは適度に探偵業をこなしていた。
「総務・経理担当だよな」
シャーロックはたまりに溜まった書類の整理に追われていた。
依頼の内容と報告書をまとめてリスト化し、PDFデータに変換プリントアウト。それをファイリングし記録として保管する。それだけの作業ではあるが、一人でしかも依頼の交渉や進捗把握までしなければならない。
「んじゃ、人雇うのか?」
来客用のソファの上でゴロゴロしているワットソンがシャーロックの方を見る。
「そうは言ってもな……、なかなかに骨が折れると思うぞ?」
探偵事務所が雑務のバイトを募集したところで応募が来るのかわからない。一応公表できる実績もあるため、こないことはないだろうが、いつ来るのかまでは想像できない。一日二日で来るかもしれないが、一週間も二週間も待たされることになると難しくなるだろう。
「ワットソンはいるか?」
和光がなにやらアタッシュケースを持って事務所に入ってくる。
「おう。和光久しぶりだな」
和光は捜査0課の刑事として仕事をしている。ここに来る理由としては外部委託の要請か事務所の様子見くらいしかなかった。そんな和光がワットソンに用があるとは珍しい。
「お前のおかげで、イイモン流して貰えたからな。その分の追加報酬みたいなもんだ」
なにかやったかというような感じでワットソンは渡されたアタッシュケースを開ける。
「おおー! すげえなこれ」
その中に収められていたのは二振りの小太刀。すらりとした黄白色の刀身に桜をあしらったような紋様が刻まれている。
「そいつはうちの鑑識班が実験的に作った小太刀だ。熊谷の遺骨から削り出した細胞から性質調査して作った小太刀だ。嵐華よりも切れ味はいいはずだが、重さとかはどうだ?」
ワットソンと一緒に死線をくぐり抜けた嵐華ではあるが、先日の
「なんか、前より軽いが俺の手にしっくりくる」
ワットソンは軽く素振りをしながら答える。
「材質は熊谷の遺骨か? ……ああ、そういうことか」
シャーロックは何故ワットソンに与えたのかと考えたがすぐに結論に辿り着いた。
先日の鑑識班の活動中の一幕で鑑識班の誰かがその性質に目を付けたのだろう。研げば鋭くなる性質を活用して作った刀身。警察の武装として採用できないところから、鑑識班が和光を経由して、ワットソンに渡したということだ。
「まあ、使うことが無いに越したことはないがな」
和光は仕事を果たしたと言わんばかりに事務所を出ていく。
「こんだけのためにわざわざ来たのかアイツ」
和光が小太刀を渡すためだけに来るとは思えなかったが、和光が帰っていたのは事実だ。
「あー、雑務のバイトのはなししとくべきだったな」
バイトを募集する話をすることを忘れていたことに、和光がいなくなってから思い出していた。
和光が出て行ってから数分。
「まあこんなもんか」
一部だけ刷った雑務のバイト募集の張り紙を眺める。
バイト募集
書類整理なと軽作業
時給1000円から応相談
週2~
18歳以上、高校生不可
「・・・、これでやるのか?」
ワットソンが目を細めながらバイト募集の張り紙を見る。これはないだろと言いたげな顔をしているが、ツッコんだら自分がやらなければいけないような感じからか、そこまで踏み込んだ発言はせずに、シャーロックに確認するような聞き方をする。
「正直これは無いと思ってる。一応数枚張ってみて、応募が来たらいいくらいだな。1週間くらいで来なければ発注することになるだろうな」
これを町中に張るのかと、げんなりした顔でワットソンが肩を落とす。
「あのー、ここ連理探偵事務所であってますか?」
事務所の扉を開けたのは一人の少女だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます